コンゴ民主共和国で謎の病気「X」 ウガンダではディンガ・ディンガ…海外ではやる感染症について知る意味は?
Dr.イワケンの「感染症のリアル」
身近なインフルエンザや帯状疱疹などから、海外で深刻なエボラ、マラリアなどまで、感染症の予防と治療について、神戸大学教授のイワケンこと岩田健太郎さんが解説します。 【グラフ】急増するインフルエンザ患者の推移
ProMedというメーリングリスト(メーリス)のサービスがあります。メーリスなんて、古くさいと思うなかれ。これがなかなかに便利です。国際感染症学会(International Society for Infectious Diseases,ISID)が主催するこのメーリスは、世界各国で発生している感染症や感染症に関連したニュースを次々とメールで提供してくれるのです。まあ、動物や植物の感染症情報まで送ってくるので若干、おなかいっぱいになるところはあるのですが(僕は獣医でも樹医でもないので、この手の問題にはズブの素人なのです)。 https://promedmail.org/
「ミステリーは解決」していない
さて、そのProMedが提供している情報のトピックを今回は紹介しましょう。まずは、コンゴ民主共和国(DRC)で流行している熱病の話題です。 DRCで謎の病気「X」が流行しているのでは、といううわさが流れました。10月以降、592人がこの疾患にかかり、140人以上が死亡したというのです。患者の多くは小児で呼吸器症状を伴っていました。 後に、多くの患者からマラリア原虫が検出され、これは重症マラリアによるものだと現地の保健省は説明しました。「ミステリーは解決した」と述べたのです。 確かに、重症マラリアで呼吸器症状がみられることはあります。特に小児では4割程度に呼吸器症状が出ます。心不全や貧血によって息切れが起きるのです。 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012369212604644?via%3Dihub とはいえ、患者の大多数で呼吸器症状が見られるのはマラリアとしては若干、奇異な気がします。現地保健省は住民の栄養不良が寄与している可能性を示唆しています。そうなのかもしれませんが、断定は禁物です。現地住民は過去のマラリア感染のために免疫がついており、マラリアは重症化しにくいのです。他の疾患にかかった方の血液に、たまたまマラリア原虫がいた可能性やマラリアに加えて別の疾患が紛れ込んでいる可能性は、本稿執筆時点ではまだ捨てきれません。 そうこうしているうちに、そのDRCから帰国したイタリア人が複数、謎の疾患にかかっています。そのうちの1人は12月16日に死亡し、「なんらかの出血熱」ではないかと疑われています。しかし、病原体はまだ確認されていません。 DRCはかつてザイールと言われてきました。そのザイールに流れるエボラ川周辺で初めて見つかったのが、いわゆる「エボラ出血熱(エボラウイルス疾患)」です。DRCは過去にも新規のウイルス感染症が勃発した地域です。事の真相はまだ分かっていませんが、この問題は注視し続ける必要があると思います。