2025年は「モカムース」、「今年の流行色」の原点はなんと鳥だった、現代文化の象徴
パントン社の「色見本」、19世紀の鳥類学者が手作りで始めた色辞典がルーツ
米国の色見本の会社であるパントン社が発表した「カラー・オブ・ザ・イヤー 2025」は「モカムース」。安らぎや甘美さを連想させる色合いだ。パントン社のエグゼクティブ・ディレクター、リアトリス・アイズマン氏は、発表に当たり「(この色は)控えめで落ち着いたブラウンのイメージを、意欲的で豪華なイメージにまで広げます」と表現した。 ギャラリー: 大ヒットした「色見本」と色鮮やかな鳥たちほか 写真10点 同社が毎年12月に発表する翌年のトレンドカラーは、デザインの流行だけでなく、現代文化の象徴でもある。パントンがトレンドをリードするデジタルデザインの世界は、意外にも、博物館のほこりっぽい棚に並ぶ100年前の鳥の標本という、一見全くかけ離れている世界と密接な関係がある。 なぜなら、同社の色見本は、原点の少なくとも一部が、鳥類学と自然史にあるからだ。 鳥類学者で画家のロバート・リッジウェイは、1886年から1929年まで米スミソニアン国立自然史博物館で米国の鳥類の生態を記録していた。仕事上、鳥類の色を正確に描写する必要があった。 コマツグミの胸元の赤みを帯びた鮮やかなオレンジや、ムラサキマシコの、同じワインレッドでも微妙に異なる色調などを描写するのは、想像以上に難しい作業だ。色というのは周囲の光や近くにある別の色によって、その時々で違ったように見えるからだ。 この問題を解決するため、リッジウェイは1000以上の色を網羅した2冊の辞典を作った。マスタードゴールドからピーコックブルーまで、ページというページが手描きの色で埋め尽くされた色見本だ。 こうした地道な作業から始まったものが(しかも2冊目は自費出版だった)、やがて1960年代にパントン社が始めた色見本「パントンマッチングシステム」の誕生につながった。 「リッジウェイが色見本を作るまで、色を表す共通の用語はありませんでした」と、米イリノイ・オーデュボン協会会長のブライアン・エリス氏は言う。エリス氏は、リッジウェイに扮してその歴史的偉業を伝えるパフォーマンスも行っている。「仕事上の必要に駆られてリッジウェイが作ったものが、あっという間に幅広い用途で使われるようになったのです」