2025年は「モカムース」、「今年の流行色」の原点はなんと鳥だった、現代文化の象徴
本当の色
「アマチュアの野鳥愛好家にとっても鳥類学者にとっても、種を識別するときに色は大きな役割を果たします」と、米コーネル大学鳥類学研究所で教育プログラム開発と講師を務めるケビン・マガーワン氏は説明する。 しかし、鳥を単に「青い」と表現するだけでは十分ではない。アオカケスもルリツグミもルリノジコも、みな青色の鳥だ。だが、ルリノジコの鮮やかな青は、アオカケスのやわらかなスカイブルーとは全く別物だ。 「微妙な色の違いを表現するのは非常に難しいのです」とマガーワン氏は言う。生まれつきの個体差もあるため、「実際は違うものを見ている可能性だってあります」 北米の多様な鳥類の記述に多くの時間を費やしたリッジウェイは、最終的に1000を超える鳥の色の名前と特徴を記したとエリス氏は言う。 リッジウェイは妻ジュリアと共に数多くの鳥を写生し、絵を描いた。その絵は、米国の画家であり鳥類学者のジョン・ジェームズ・オーデュボンに匹敵する腕前だ。 リッジウェイが生まれる何百年も前から色辞典は存在してはいたが、全てを網羅しているとはいえなかったし、博物学者向けでもなかった。 1800年代後半には化学染料も登場した。コールタール由来の化学染料は、それまで長く頼ってきた植物由来の染料とは違い、色のばらつきがなく、リッジウェイだけでなく多くの人々に全く新しい色の世界をもたらした、とエリス氏は語る。
必携の書
リッジウェイが1886年に出した本『A Nomenclature of Colors for Naturalists(博物学者のための色一覧)』で、リッジウェイ夫妻はページ全体を1つの色で塗り、それを小さな見本に切り分けたものを、本の一冊一冊に貼り付けていった。こうすることで、例えば「オリーブグリーン」はどの本を見ても同じ色になる。本に掲載されている 186のカラープレートからは、夫妻の筆遣いが見てとれる。 「夫妻が手作りした本は、どれをとっても全く均一な仕上がりでした」とエリス氏。 それ自体素晴らしい成果だったが、リッジウェイはまだ不十分だと考えた。そこで、さらに内容を充実させた本の出版に自ら乗り出す。今度は、1つのページに濃淡順に色を並べた。左上に純白、右下に黒を配置し、その間には色相やトーンの異なるものを並べ、画家や博物学者が正確に色を照合できるようにした。 こうしてできあがった1912年刊の『Color Standards and Color Nomenclature(色の基準と色一覧)』は、たちまちヒットし、増刷を重ねた。リッジウェイが望んだ通り、この本は博物学者必携のガイドブックとなったばかりか、デザイナー、切手収集家、フードカラーリストにも広がった。 「リッジウェイ夫妻の色見本は、生命の多様性を理解する上で、私たちにとっては今でも基本です」と、スミソニアン国立自然史博物館の羽毛識別研究所で研究助手を務めるサラ・ラトレル氏は語る。 「人間は視覚的な生きものです。まず色が目に飛び込んできますから」