なぜ神戸のACL8強決める”イニエスタ弾”が生まれたのか…「まだまだ歴史を作り続けていく」
中東カタールで集中開催されている、ACL東地区の決勝トーナメント1回戦の残り2試合が7日に行われ、上海上港(中国)に2-0で快勝したヴィッセル神戸が日本勢で唯一、10日の準々決勝進出を決めた。 水原三星(韓国)に2-3で逆転負けを喫した横浜F・マリノスは、前日6日に北京国安(中国)に0-1で敗れたFC東京とともに、ベスト16で大会から姿を消した。 初出場の神戸をアジアのベスト8へと導いたのは、最高峰の戦いであるUEFAチャンピオンズリーグをバルセロナ時代に4度制した36歳のレジェンド、アンドレス・イニエスタだった。両チームともに無得点で迎えた前半31分に、稀代のプレーメイカーがストライカーへと変貌を遂げた。 左サイドで得たスローインをDF酒井高徳から受けたMF山口蛍が振り向きざまに、右サイドバックの山川哲史へ大きなサイドチェンジのパスを送る。このとき、イニエスタは敵陣の中央から右タッチライン際へとポジションを移し、山川からのショートパスを呼び込んだ。 2人のマーカーを引きつけたイニエスタは近づいてきたMF郷家友太にボールを預け、そのまま左斜め前、相手ゴール方向へとポジションを上げていく。その際に右手でさりげなく郷家へ合図を送り、入れ替わるように右タッチライン際に入ってきた山川へパスを送るようにうながした。 ボールを受けた山川は、すかさず近づいてきた山口へ横パスを出す。サイドチェンジを皮切りに、左右にパスを振られた上海上港の守備網は大きく広げられ、さらに完全にボールウオッチャーになったことで、ペナルティーエリア付近に近づいてきたイニエスタへのマークが甘くなっていた。
だからこそ山口がワンタッチで放ったイニエスタへの縦パスに、虚を突かれたかのように誰も反応できない。しかも半身の体勢から右足でトラップしたイニエスタは、横方向への滑らかな動きに転じて相手を翻弄。右足で2度ボールに軽く触れ、さらに左足のフェイントを織り交ぜた直後だった。 左足から放たれた低い弾道のシュートが、GKチェン・ウェイの左手を弾いてゴールへと吸い込まれていく。自身を取り囲んだ3人の選手にブロックすらさせず、なおかつ相手GKのタイミングをも微妙に狂わす完璧な一撃から生まれた先制点に、イニエスタも喜びを隠せなかった。 「ゴールを決めることでチームの勝利と、次のラウンド進出に貢献することができてとても幸せだ」 後半5分にはACLへ向けて準備してきた新布陣が奏功する。敵陣の左奥でボールをキープしたFW古橋亨梧が、相手の一瞬の隙を突いてゴール前へクロスを供給する。マーカーともつれ合いながらも右足をボールにヒットさせ、巧みにコースを変えてゴールへと流し込んだのは右サイドバックを本職としながら、上海上港戦では[4-3-3]システムの右ウイングに抜擢された西大伍だった。 鹿島アントラーズ時代の2018シーズンにACLを制した経験をもつ、33歳のベテランを前線で起用したのはなぜなのか。9月から指揮を執る三浦淳寛監督は、5連敗を含めて10試合で1勝1分け8敗と泥沼にあえいだ、カタールへ出発する直前までの明治安田生命J1リーグで「正直に言えば、このACLで結果を出すために、いろいろな選手の起用法や組み合わせを試した」と打ち明ける。 「リーグ戦で結果は出なかったけど、若い選手たちの成長とチーム全体の底上げを図り、各選手の適正ポジションやユーティリティー性を試してきた結果が、大伍を前線で使う選択に繋がった」