神戸イニエスタが8度目結婚記念日に魅せた”神業アシスト”はいかにして生まれたか?
サッカーにおけるスペースとは目の前に、平面的に広がっているだけではない。異次元の域に達している発想力と、それを具現化できる神業的なテクニックをとっさに融合させれば、ピッチの上に立体的に広がっている、相手選手がジャンプしても届かない空間もまたスペースと化す。 言葉にすれば数行で表現できるものの、現実の世界で成功させるには不可能に近いと言っていいスーパープレーが、再開して2戦目を迎えたJリーグで生まれた。無観客試合改めリモートマッチでミラクルを起こしたのは、ヴィッセル神戸が誇る稀代の司令塔、アンドレス・イニエスタだ。 サガン鳥栖のホーム、駅前不動産スタジアムに乗り込んだ8日の明治安田生命J1リーグ第3節。両チームともに無得点のまま迎えた後半30分に、まばゆい輝きを放ったイニエスタの思考回路と右足がFWドウグラスの値千金の先制ゴールと、1-0で手にしたヴィッセルのリーグ戦初勝利をもたらした。 敵陣の左サイドでMF酒井高徳からMF郷家友太を介して、イニエスタへ託そうとしたパスが後方へわずかにずれた。体勢を崩しながらも左足でボールを止めたイニエスタは、サガンの選手2人に挟まれる形になった状況を受けて、後方にいたMF山口蛍へ一度ボールを戻した。 次の瞬間、山口はワンタッチで前方へいる郷家へ浮き球の速い縦パスを送る。青森山田高から加入して3年目の21歳は、相手ゴールに背を向けた体勢から右足のかかとをボールにヒット。自身の左足の裏にボールを通すトリッキーなプレーで、スピードはそのままでパスの行き先を直角方向へ変えた。 あうんの呼吸だったのか。宙に浮いたままのボールは、バイタルエリアへスルスルとポジションを移していたイニエスタのもとへと向かう。しかし、目の前にいるドウグラスはDFエドゥアルドに、FW藤本憲明はDF原輝綺に、FW田中順也はMF内田裕斗にそれぞれ密着マークされていた。 一見するとスペースはなかった。それでもイニエスタの俯瞰的な視線はピッチの上に広がる空間に、ゴールへとつながる道筋をはっきりと、なおかつ瞬時にとらえていた。 「鳥栖のゴール近くでプレーする場面になると、相手は常に人数を多く集めるディフェンスをしてきたので、スペースを見つけることが難しい状況が続いていた。ただ、あの場面だけはワンタッチの早い展開のなかで、上からパスを通すことでスペースを見つけることができた」