収益目的の「切り抜き動画」に違法性は?──2024年主要選挙とメディア #SNSの功罪
Aさんはもともと政治やニュースが好きだという。石丸氏のことは安芸高田市長時代に話題になっていた頃から好感を持っており、国民民主党は以前からの支持政党だったため、それらの動画はよく見ていた。切り抜くときに気をつけているのは「話の文脈を変えないこと」だ。そして、「よくわからないことは手をつけない」ことをポリシーとしている。そのため、兵庫県知事選に関しては選挙戦中、切り抜きをしなかった。 「兵庫県知事選後、大手メディアがSNSの影響について報じていました。でも、切り抜き動画のせいで選挙結果が変わるなんてことはないのではと思います。テレビや新聞のような大手メディアからしたら、ユーチューバーは野球で言ったら草野球レベル。それなのに『YouTubeの情報にだまされている』みたいなメディアの論調はYouTubeへの過信だと思いますね」 そうAさんは疑問を語った。
現在の公職選挙法では、候補者が支援者に対して選挙活動で対価を支払うと罰せられる。だが、YouTubeなどの動画サイトでは、この関係性は成立しない。選挙運動の対価は候補者からは支払われず、グーグルなどの運営会社から広告収入としてもたらされるためだ。そのため、候補者は無償で切り抜きを推奨できる。候補者を応援するという観点でも、表現の自由という観点でも活動は妥当だろう。 一方、切り抜き動画の中には、選挙の応援とは考えにくい動画もある。SNSでは選挙区はもちろん国も問わず、情報発信の活動ができる。そのためか、政治家の切り抜き動画の中には、動画内の文字に中国語の簡体字が使われていたり、日本語として不自然な文章が表現されていたり、候補者の支援者とは考えにくい人も参加している実情がある。 公選法1条は「選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し」と規定している。だが、選挙の切り抜き動画が収益狙いで使われているとすれば、選挙制度の趣旨から外れているようにも映る。