収益目的の「切り抜き動画」に違法性は?──2024年主要選挙とメディア #SNSの功罪
2024年は注目の選挙が相次ぎ、話題を呼んだ動きがあった。7月の東京都知事選では前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が下馬評を大きく覆して2位に。10月の衆議院議員選挙では7議席だった国民民主党が4倍の28議席に躍進。11月の兵庫県知事選では、県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤元彦氏が圧勝した。これらの現象に共通していたのがSNSでの活況で、とりわけ目立ったのが「切り抜き動画」だった。「切り抜き動画」とはどういうもので、選挙にどの程度影響を及ぼし、どんな懸念があるのか。切り抜き動画の作成者や専門家に話を聞いた。(文・写真:ジャーナリスト・小川匡則/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「石丸氏から始めた」切り抜き動画作成者・Aさん
「切り抜き動画を始めたきっかけは、2024年の都知事選の際にたまたま職場の近くで石丸伸二さんの街頭演説を見たことでした。そのときに撮った1分くらいの動画を2つ、YouTubeに投稿してみたんです。そしたら、すぐに1万回くらい再生された。驚きました。それで、切り抜きをやってみようと思ったんです。もともとひろゆき(西村博之氏)のも見ていましたし。ただ、私の石丸さんのは出遅れて、始めたのは投票日の直後からでした」 そう語るのは埼玉県在住のAさん、40代の男性だ。石丸伸二氏に関する切り抜き動画チャンネル「切り抜きの女王【石丸伸二&国民民主党応援】」を運営している。2024年7月の開設から半年足らずで100本以上の切り抜き動画を編集・投稿してきた。2024年12月下旬現在、チャンネル登録者数は3000人弱だ。Aさんは普段は都内のIT企業で働いていることもあり、動画制作は苦ではない。気が向いたときに切り抜き動画を作る。AIのソフトで自動的に字幕をつけたり、音声ナレーションをつけたりするが、作業時間はわずか1~2時間だという。始めてまもなく収益化を目指した。
「YouTubeの収益要件は登録者数が1000人、過去365日間の総再生時間が4000時間などの条件があります。結構ハードルが高いと思ったのですが、1カ月くらいで達成しました。これまで約半年間で作った動画の累計の再生数は140万回くらいです。そんなに時間をかけて作っていないので、相応程度に回っているなという印象です」 ただ、切り抜きで大きくもうかっているわけではないとAさんは言う。 「これまでのところ、収益は平均して月1万5000円から2万円くらいです。動画が当たって6万円になった月もありました。だいたい1000回再生で150円くらい、ショート動画(数十秒~数分の動画。スマホ用に縦型画面)だと50円くらいです。ただ、累進性があるようで、10万回再生とかになると、もっと単価は高かったです。ショート動画は呼び込みのために作っているんですが、体感としてはショート動画のほうが一桁多く見られていると思います。一つの動画を作るとショート動画と合わせて2000円くらいになることが多いです。5本作れば1万円。そんなイメージです。もっと回ってくれたらいいんですが……」 頑張れば月10万円くらい稼げるかもしれないが、現状を見るかぎり、切り抜き動画だけを専業にするのは「しんどいと思う」と言う。 「私は副業で楽しみとしてやっているので、5万円でも収入になれば、おいしいものでも食べようかな、という程度。モチベーションになっているのは、収益より自分が『これ面白いな』とか『これは問題だな』と思ったときに、それを共有できること。またそれに対して『こういう要点をまとめてくれてありがたい』といったフィードバックがあることがうれしいですね」