約2年ぶり国内世界戦に挑む井上尚弥に“見えない敵”…ドネアとPPV料金3960円にふさわしい「KOの仕方」
そして今回のタイトル戦には目に見えぬ、もうひとつの戦いがある。3つ目の戦う理由だ。ボクシング界で本格的に初導入されることになったPPVの成否である。 「先に向けて今回PPVの形を選んだ。先につながるように成功していけばいい」 視聴価格としては強気の3960円をつけた。総合格闘技イベント「RIZIN」や、朝倉未来の1000万円企画なども、同程度の価格設定だが、井上尚弥というビッグネームにどれだけの視聴者数が集まるのか。関係者も「試合開始2時間くらい前をピークに当日に一気に増えるので先が読めない」という。 会見で井上に少し意地悪な質問をした。 ――3960円の価格にふさわしいファイトとは? 「そこに関しては、自分がやるべきこと、やるべきパフォーマンスを出して、ファンの方々がどう感じるか。そこ(3960円)を満足させるだけの試合をしていきたい。絶対に見てよかったと思う試合をしたい」 PPVの成功の基準は?とも聞かれ「関係者の方々の判断にお任せしたい」と答えた。 ブックメーカーの大手ウィリアムヒルでは、井上の勝利が「1.02」倍。KOラウンドの掛け率でさえ1、2ラウンドが「4.0」倍となっている。もはや「勝ち方」ではなく「KOの仕方」までを求められている試合だけに「リードパンチで倒すのが一番カッコいい」と、プロモーション映像で発言した。 その真意を問われ、「リードパンチで倒すというのは、自分の表現であって、それくらいの実力差を見せて勝つという自分の意気込み。明日リングで向かい合ってからすべてを決めていきたい」と、説明した。 リードブロー、すなわちジャブの一撃で倒しでもすれば、世界に衝撃を与えるが、ボクシングがハーモニーを奏でるのは、相手あってのもの。亀のように防御を固められ、「倒されない試合」を選択されると、さすがの井上でもジャブだけでこじ開けるのは難しい。 となると、ディパエンが出てくるか、どうかが勝負の分かれ目となる。 会見で、そこを突っ込んだが、通訳を買って出てくれたマネージャ氏と意思疎通がうまくとれず「みなさんは、ディパエンが弱いと思っているかもしれないが、自信はある。明日の試合で誰が勝つのかわかりますよ。絶対に世界のベルトを持って帰る」と、少し的外れの回答だったため、会見後、もう一度、関係者に確かめると「前に出てプレスをかけていきます。決して逃げ回るつもりはない」との答えが返ってきた。パンチャーのタイ人に、一か八かの勝負を仕掛けられることに、ほんの数ミクロンほどの不安は残るが、本当にディフェンシブな戦いをしないのであれば、ファイトは噛み合って、とんでもないフィニッシュを両国国技館で目撃することができるのかもしれない。 最後にひとつ伝えたいのは、ゴングを明日に控えて「これだけドキドキした興行は過去に一度もなかった。明日、地震が起きないことだけを祈る」と、切実に語った大橋会長のコメントである。