進む円安「140円」も視野? 為替介入はあるのか 2つの論点から考える
四半世紀ぶりの水準まで進んだ円安。政府の為替介入はあるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】「悪い円安論」にウクライナ情勢で物価上昇も…マイナス金利撤回も視野
「なし」が筆者のメインシナリオ
6月23日時点でドル円は136円近辺まで円安方向にシフトしています。次なる節目の140円が視野に入る中、政府による為替介入の有無が注目されています。為替介入をめぐる論点は二つに大別されます。まず介入はあるのか、そしてその効果はいかほどか。 為替介入の有無について筆者は「なし」がメインシナリオです。ただし参院選を控える中、物価高に無策でいたくない政府は何らかのアクションを起こしたいと考えているはずですから、その手段として口先介入の強化は考えられます。現在の円安を「投機筋の一方的な円売り」に理由を求め、その上で「投機的な動きによって為替市場が翻弄されている」「断固たる措置を講ずる」などといった認識を示すことでけん制球を投じることが考えられます。もちろんその効果は限定的でしょう。 ドル円が140円を超えるなら、政府(財務省)内で為替介入が選択肢に浮上する可能性はあります。しかしながら、為替介入は期待される効果に乏しい上、国際的な立場が悪くなるという犠牲を払う必要があります。これらを考慮して政府は為替介入を自重すると判断されます。
介入効果が限定的だった過去のケース
過去の事例に鑑みると、為替介入の効果は一時的かつ限定的と考えるのが自然です。直近の事例は、円高に直面していた2011年の大規模円売り・ドル買い介入でした。当時は欧州債務問題によるユーロ売り、米国のQE3(量的緩和策の第3弾)によるドル売り圧力が強まる中、「リスク回避の円買い」により円が独歩高となり、政府はそれを「投機的な動き」とみなして為替介入を繰り返しました。その都度一定の効果は得られたものの、リーマンショック前から続いていた円高基調を崩すには至らず、基調反転は欧州債務問題の沈静化、米国のQE3終了を待つことになりました。 直近の円買い・ドル売り介入は1998年まで遡ります。当時は日本がバブル崩壊後の金融危機的な状況に直面し、日銀短観の業況判断DIは大きくマイナス方向に突き出る深刻な状況でした。この間の急激な円安を受けて政府は1997年11月から98年6月まで複数回にわたり介入を実施。その後ドル円は1998年7月をピークに円高方向へ向かいました。これは一見すると政府の為替介入が奏功したようにみえますが、より重要な背景としてFedの利下げ(観測)があったことは認識しておくべきでしょう。FRB(米連邦準備制度理事会)は1998年9月から金融緩和(利下げ)に転じており、これが円安トレンドを転換させた主因であると考えられます。