「中絶禁止」に「禁書」まで…いまのアメリカに現地の日本人女性が抱く危機感
危ぶまれる「教育省廃止」と「禁書」
トランプは教育省の廃止も唱え続けている(※)。理由は「不適切な人種、性、政治に関する資料(本を含む)で若者を教化している」だ。教育省は日本の文部科学省に相当する連邦機関だが、アメリカは州の独立性が高く、現在も教育についての州法があり、どの州に住むかで子供が受ける教育は驚くほど変わってくる。 ※今月19日、トランプは その一例が、禁書だ。ここ数年、アメリカ各地の保守的な地域で学校の図書室や教室から特定の本を排除する禁書が進んでいる(※)。禁書の対象は、最初は黒人史にまつわるものだった。白人の親が「学校で奴隷制度について学んだ我が子が『私たちは悪い人なの?』と罪悪感を抱いた」と言い始めたのだった。以後、先住民、ラテン系、アジア系など人種民族マイノリティの歴史や文化を教えることは「分断を招く」と、やはり排除の対象となった。 ※筆者注:フロリダなど保守的な州は州法による禁書を始めているが、基本的には「学区」単位。ニューヨークなどリベラルと思われている州にも保守的なエリアはあり、ごくわずかの学区では禁書が起こっている。 マジョリティに虐げられ、長年にわたってそれを乗り越えようとしてきたマイノリティの物語を、マジョリティが傷付き、分断を招くという理由により子供に読ませないという論理は果たして成り立つのか。
アジア系の「吊り目」を肯定する絵本が禁書に
禁書になったものの中には、アジア系の作家ジョアナ・ホーによる絵本『Eyes That Kiss in the Corners』(目じりでキスをする目、2022年発売)がある。アジア系の小学生の女の子が、クラスメートの白人や黒人の女の子たちのぱっちりと大きな目は可愛いけれど、私の目はそうじゃない、私の目は愛情たっぷりのお母さんやおばあちゃんから引き継いだもので、そこにはアジアの歴史と文化があると語る物語だ。 アメリカに暮らすアジア系は、いまだに目じりを指で吊り上げるジェスチャーでからかわれることがある。近年はその瞬間がスマホによって撮影されてSNSにポストされ、非難される。それでも青く大きな目と長いまつ毛が美しく、一重で細い目は美しくないとする美の基準は無くならない。 だからこそアジア系の、特に女の子たちに向けてのこうした絵本が描かれる。これを禁書とする理由は、やはり虐める側であるマジョリティが「悪い子」と非難されるのを恐れてのことだ。この絵本はアジア系のポジティブな描写のみで構成され、虐めのシーンなどなく、白人を非難するものではないにもかかわらず。