「中絶禁止」に「禁書」まで…いまのアメリカに現地の日本人女性が抱く危機感
子どもたちの自尊心が奪われてしまう
同じことがLGBTQ+を描いた絵本にも起こっており、特にトランスジェンダーを主人公とする絵本は禁書推進派に見つかるとほぼ必ずに禁書となる。これはアメリカに深く根付くキリスト教の文化から来ており、トランスの存在自体を認めないのだ。 トランスの子供が主人公の絵本は何冊も出版されているが、絵本は幼児が対象であり、当然ながら恋愛や性愛は登場しない。例えば、『When Aidan Became a Brother』(エイダンがおにいちゃんになった時、2019年発売)という絵本は、女の子として生まれ、ピンクのワンピースや人形を買い与えられて育つ小さな子供がいつしか違和感を抱き始め、やがて「自分はスカートじゃなくて、ズボンが履きたいんだ!」と気付く。それを知った親は葛藤するが、やがて我が子をありのままに受け入れる物語だ。 アジア系の目の物語も、トランスの幼児の物語も、当事者である子供たちには必要な物語だ。自分の姿を絵本の中に見つけ、自分だけじゃないんだと知る安堵と共感によって自尊心が育まれる。他の子供たちにとっても、自分とは異なる人たちがいるのだと学ぶ機会になる。 全米各地で禁書を盛んに進めているのは「自由を求めるママたち」と名乗るグループだ。彼女たちが求める「自由」とは、政府にコントロールされず、親が子供の教育法を選べる自由だ。したがってトランプによる教育省廃止を歓迎する。彼女たちは人種民族/宗教マイノリティの子供たち、LGBTQ+の子供たちがのびのびと育つ自由は気に掛けない。 これがトランプの望むアメリカなのだ。しかし私は女性として、母親として、アジア系という人種民族マイノリティとして、かつ移民として、そして何よりアメリカ社会の一員として、トランプに屈するわけにはいかない。そのために自分に何が出来るのか、模索する日々がこれから始まる。
堂本 かおる(ライター)