「中絶禁止」に「禁書」まで…いまのアメリカに現地の日本人女性が抱く危機感
「中絶禁止」で死亡者も…不安だらけの政策
人事だけでなく、政策への不安も無数にある。 トランプが政権1期目に米連邦最高裁判事に保守派を多く指名した影響で、2022年に最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことは知られているところだが(その際、トランプは「神の決断」とFOXニュースのインタビューで述べ、最高裁の裁定は自らの功績であるというコメントも発表している)、その後、中絶の規制がさまざまな州に広がっている。 厳しい規制の一つが「ハートビート法」(胎児の心音が確認される妊娠6週目以降の中絶を禁止する法案)だ。6週目を過ぎても女性自身が妊娠に気づかないケースが多いため、実質的な中絶禁止だといわれている。 母体の健康が深刻な危険にさらされている場合は例外とされているが、その定義が曖昧なため医師がギリギリまで施術を拒み、母体の容体が悪化して亡くなってしまったケースもある(参考:「中絶制限法で処置遅れ女性死亡 米ジョージア州」時事ドットコム)。同様のケースが出ることを見越し、在米の女性たちはSNS上で、「今後、渡米する女性は各州の中絶法を確認して」と警告を発している。 また、トランプは前回の立候補時より延々と「オバマケア廃止」を訴えながら、未だに成せていない。皆保険制度を持たないアメリカは医療保険未加入者が多く、医療にかかれない人が多かった。今では自身もACA(オバマケアの正式名称「Affordable Care Act」の略)加入者でありながら、それに気付かないままトランプを支持する人も多かった。今回、万が一にもオバマケ廃止となれば、彼らもまた医療を受けられない事態になりかねない。 選挙戦中からトランプが繰り返してきた、ビザなし移民(いわゆる不法移民)の「大量強制送還」も、不安を超えた恐怖を拡散している。全米に1,100万人と見積もられているビザなし移民の中には、アメリカに10年、20年と暮らし、働き、納税し、結婚して子供を育てている人も多い。トランプ政権第1期で行われた移民家族の離散は今回も起こるのか。親だけが強制送還され、親と再会できない子供が今もまだ1,000人以上も存在する。 子供の時期に親に連れられ、または単身で渡米し、滞在資格を持たないままアメリカで育った若者に進学、就職の道を開く救済措置として、DACA(Deferred Action for Childhood Arrivalsの略)がある。オバマ政権下の2012年に導入された制度で、これにより今では多くの若者がアメリカ社会の一員となっている。しかし永住権を持たない彼らもトランプの「大量強制送還」の対象になり得る。さらにトランプは市民権を取得(帰化)した者であっても、過去の行状によって市民権剥奪を行うとしている。 トランプが口を開けば開くほど、不安に苛まれる人が増えていくのだ。