タイ 美術館&ギャラリーガイド。現代タイを考えるポリティカル/ソーシャルなアートスペース7選+α(文:福冨渉)
政治的・社会的なテーマの作品を展示するスペースを厳選!
タイという国はアート好きにとって、結構天国みたいな場所だと思う。見渡せばそこらじゅうに美術館やギャラリーがあって、しかもそのほとんどに無料で入ることができる(しかも冷房が効いている)。 当初はそんなタイの近現代アートを展示する美術館などの紹介を、という依頼をいただいたのだけれど、あいにく筆者はアートを専門的に学んだ人間ではない。もちろん個人的な興味関心からギャラリーに通いもするし、これまでの仕事のなかでできたアーティストの友人や知人も多くいるのだけど、包括的なアートシーンの話なんかはできない。それで、あくまでその個人的な興味やつながりの範疇で、最近ますます増えている、政治的・社会的なテーマの作品を展示するような空間を紹介させてもらうことにした。 そんな超極私的なガイドなのだけれども、タイ社会が「いま」向き合ういろんな問題系が見えてくるような場所が多いので、ここをスタート地点に、ご自身でいろんなところに行っていただけたらいいなと思う。
【バンコク】Kinjai Contemporary(キンジャイ・コンテンポラリー)
バンコクでは、この数年でBTS(高架鉄道)とMRT(地下鉄)の延伸が一気に進んだ。おかげで、少し前なら船か車を使わないと到達が難しかったチャオプラヤー川西岸地域へのアクセスが、格段によくなっている。 そんなMRTブルーラインのSirindhorn(シリントーン)駅から徒歩すぐの場所に、2018年にオープンしたKinjai Contemporary(キンジャイ・コンテンポラリー)がある。オープン当初から若手アーティストの作品を積極的に展示しているが、近年では様々な団体と協同して、より直接に政治的なプロジェクトを展開するためのスペースとしても注目を集めている。今年の8月には、アムネスティ・インターナショナル・タイランドとの協力で展示「Protest for Tomorrow」を開催した。2020年以降の民主化運動を振り返りつつ、表現の自由や集会の自由について議論するセミナーもおこなわれた。 大きな注目を集めたのは、2022年の「6 October: Facing Demons」だろう。親王室右派の一般市民団体と軍・警察が、国立タマサート大学に集まった左派の大学生を虐殺した1976年10月6日事件。写真をはじめとする事件の貴重な史料を展示するだけでなく、多数の研究者や関係者による討論が連日続き、多くの人々が足を運んだ。 ほかにも、中絶の権利に関する「Bangkok Abortion」(2023)や、失踪した政治犯の「好きな食事」を紹介する「At the end of some days, we will be together again」(2023)など、「いま」「ここ」のポリティカルな話題について思索を巡らせたければ間違いのないスペースだろう。それぞれの展示期間が短かったり、展示と展示の間隔が長く空いていたりするので、訪問前にあらかじめチェックを。 公式サイト(改装中):https://kinjaicontemporary.com Facebook:https://www.facebook.com/Kinjaicontemporary Instagram:https://www.facebook.com/Kinjaicontemporary/