クルマ旅だから出会える、ドキュメンタリーのような風景──イタリア・トスカーナ州シエナ県サンジミニャーノをドライブする。【特集|クルマで旅しよう!】
イタリア在住の人気コラムニスト・大矢アキオ ロレンツォが、トスカーナ屈指の観光地、サンジャミーノのドライブスポットをご紹介。名所は世界遺産の旧市街だけにあらず。中世の農村の暮らし、幻のスパイス、そして自家製オリーブオイルを巡る、クルマの旅に出かけた。 【写真】人気コラムニスト・大矢アキオ ロレンツォが、イタリアの知る人ぞ知るドライブスポットをご紹介!
“中世の葬儀”に参列する
サンジミニャーノは、トスカーナ州の州都フィレンツェ市街から南に約57キロメートル、フィレンツェ・アメリゴ・ヴェスプッチ空港からは約67キロメートルの町である。町の解説に入る前に、自動車で向かう定番ルートで通過する町、ポッジボンシに寄り道してみよう。 かつてポッジボンシは、豊富な森林資源をもとに家具製造の地として知られていた。その技術を活かし、1970年代からはキャンピングカーの生産に力を入れるようになった。今日、イタリア製キャンパーの実に80%が一帯で造られている。 そのポッジボンシに「考古学公園」と名付けられた屋外施設がある。着工は2014年という比較的新しい施設だ。2026年の全17棟完成に向けて今も計画は進行中である。そう書くと建売住宅の広告のようであるが、実際は中世前期である9世紀~10世紀半ばの村を、実際に発掘が行われた場所に1/1スケールで再現しようというものである。現在までに完成しているのは、荘園領主の住居、脱穀場と鶏小屋を備えた農家、鍛冶屋、パン焼き窯、そして干し草置き場2つだ。 取材に訪れた11月1日は、「諸聖人の祝日」と名づけられたイタリアの祝日。多くの人たちが先祖の霊を祀ったお墓参りをする日である。その日、考古学公園では「前期中世の葬儀」が毎年行われている。 それは演劇形式で始まった。ときはザクセン戦争を起こしたことで知られるカール大帝の時代。数日の行方不明ののち、使用人ウルソの弟アヌーロが遺体で発見される。平和な村は一転して悲しみに包まれるが、亡骸にオリーブの枝を次々と置いてゆくなど、しきたりにしたがって葬儀を進める。そうした様子を、筆者を含め来場者は、あたかも参列者のように、演者の脇で流れを見守った。 式は平穏に終わるかと思いきや、村民の対立あり、先にこの世を去った先祖たちの語りあり……とストーリーは1時間以上にわたり続いた。迫真の演技はプロの俳優ではなかった。シエナ大学で考古学の教鞭をとるマルコ・ヴァレンティ教授と、彼のラボに所属する若き研究者たちであった。「村人の衣装も考証に基づいたものです」と、みずからも出演したヴァレンティ教授は説明する。 前期中世の葬儀が行われる日は限られているが、施設は常に無料で見学可能だ。さらに日曜・祝日のいずれも午後は、再現された住居の内部を、こちらも無料で見ることができる。 同じ中世でも、後期におけるイタリア都市の様子は、各地に残る歴史的旧市街から想像が容易だ。しかしそれ以前の村を、それも原寸大で体験できる場所は珍しい。「中世前期に関するものでは、イタリアで唯一の屋外ミュージアムです」とヴァレンティ教授は胸を張る。
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