クルマ旅だから出会える、ドキュメンタリーのような風景──イタリア・トスカーナ州シエナ県サンジミニャーノをドライブする。【特集|クルマで旅しよう!】
3世紀の時を超えて蘇ったサフラン
今回の最終目的地であるサンジミニャーノの旧市街は、ユネスコの世界遺産にも指定されていることから、すでに多くのメディアで詳しく紹介されている。したがって、ここでは基本的なことのみを記そう。 海抜は 334 メートル。中世には英国カンタベリーからローマに至る巡礼路フランチジェーナ街道の恩恵で発展。1199 年、前回記したヴォルテッラの司教から解放されて自由都市となると、目覚ましい成長を遂げた。町を象徴する塔は、当時の富裕家庭が財力を誇るために競って建てたものである。今日その数は14本だが、最盛期には72本が存在した。 しかし1348年のペストによる人口減少は、地域経済に深刻な打撃を与えた。1353年にはフィレンツェ共和国への服従を宣言したものの、さらに数世紀にわたりサンジミニャーノは衰退した。多くの塔はその間に、崩壊するか取り壊された。しかし19世紀末から徐々にその景観が再評価され、今日ではトスカーナ屈指の観光地となっている。 サンジミニャーノの名産は? と聞けば、多くの人が「ヴェルナッチャ・ディ・サンジミニャーノ」と答えるはずだ。ヴェルナッチャという品種のブドウを用いた白ワインで、イタリア産ワインで最上の格付けであるDOCGに認定されている。だが実はもうひとつ、古くて新しい名物がある。サフランだ。 旧市街から自動車で南に約4キロメートル、「カーザノーヴァ・ペッシッレ」は、サフランの栽培を手がけているアグリトゥリズモ(農園民宿)である。主人のロベルト・ファンチュッリーニさんによると、8~9月に球根を植え、秋雨が降ったあと10月に花を収穫する。ただし夕方にはしぼんでしまうため、早朝に雌しべを取る。1輪の花から採れる雌しべは僅か3本だ。その後40℃のオーブンで8時間熱すると、重量は70%も減る。「1kgを集めるのには、25万本の花が必要です」と語る。手のかかる作業である。 ロベルトさんは続ける。「中世にサフランは染料や生薬、そしてスパイスとして、サンジミニャーノを支える重要な交易品でした。しかし17世紀になると、地域の農家は、より収益性が高いワイン用ブドウなどに作物を切り替えてしまったのです」。しかしロベルトさんは複数の大学の協力を得ながら地元サフランの再興を模索。1999年に本格生産をスタートし、2005年にはサフランとして初めて欧州連合が定める品質表示DOPの取得に成功した。3世紀以上の時を経て、現代によみがえった中世のスパイスである。
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