月が本当に人間に影響を与えている可能性、長年の否定論を変えつつある最近の驚きの証拠
月と気分の変動
2017年に学術誌「Molecular Psychiatry」に発表した研究で、ウェアー氏らは、米国の双極性障害の患者17人を、延べ37年半にわたって追跡した。この病気では通常、数週間ごとに躁(そう)状態とうつ状態の間を行き来する。 多くの患者の気分の変動は月の周期と同期しており、満月の期間、またときとして新月の期間に起こった。「満月と新月の両方に反応する人もいます」とウェアー氏は言う。 ウェアー氏は、月に関連する睡眠の変化が、こうした気分の変動に影響している可能性があると考えている。氏が以前に行った研究は、睡眠不足が躁状態を引き起こすのに関わっていることを示唆している。 また、氏らが2021年に学術誌「Science Advances」に発表した研究では、平均28日間である女性の月経周期が、一部の女性では月の周期と一致する可能性があるという証拠が示されている。 こうした効果は断続的であり、しばらく月の周期との同期が続いたり、再びずれたりする様子が見られた。研究に協力した22人の女性の中には、満月の期間に月経が来る人もいれば、新月の期間に来る人もおり、またそのふたつの間で切り替わる人もいた。 この研究は、参加者本人が約15年間にわたってつけた月経記録に基づいて行われた。女性が年齢を重ねたり、夜間に人工の光にさらされる機会が増えたりするにつれて、月経周期は短くなり、月と同期しなくなっていったという。論文の著者らは、女性の月経周期はその昔、月と調和していたが、現代の生活によってそれが変化したのだと考えている。
「あり」「なし」で結果が分かれてきた理由
重要な疑問は、かつての研究では明確な結論がほとんど出なかったのに、なぜ最近の研究では、月の周期と人間の健康との間に関係性が見つかっているのかということだと、ウェアー氏は言う。 その理由のひとつは、以前の研究の多くは、月周期のさまざまな時点でさまざまな人々の一瞬の状態を調べたにすぎず、個々の人を長期間にわたって追跡したわけではないことだと氏は指摘する。長く追跡しない限り、人によって異なる微妙な周期的パターンを見つけることはできない。 また、以前の研究は、それぞれ設計や手法が大きく異なっていることが多く、結果を比べるのが難しいと、チュニジア国立スポーツ医療科学センターの科学者ナリメン・ユスフィ氏は言う。 「互いに矛盾した結果が出ていたのはそのせいかもしれません」と氏は言い、研究者は月の影響を調べる際には同じ手法や手順を使うことに同意すべきだと指摘している。