「ベテルギウス」には未知の伴星 “ベテルバディ” がいるかもしれない
オリオン座の1等星「ベテルギウス(オリオン座α(アルファ)星)」は、恒星の寿命の末期に当たる「赤色超巨星」であり、もう間もなく超新星爆発(II型超新星)を起こすと考えられています。しかし、それがいつであるかについては議論があり、議論の決着には、ベテルギウスにある2種類の変光周期(明るさの変化)の理由を解明する必要があります。 ベテルギウスとその向こう側で輝く無数の星々 サイモンズ財団フラットアイアン研究所のJared A. Goldberg氏、ワイオミング大学のMeridith Joyce氏、そしてコンコリー天文台のLászló Molnár氏らの研究チームは、ベテルギウスの長い周期の明るさの変化は、今まで観測されたことのない未知の伴星が関与しているとする説を発表しました。 研究チームから愛称として “ベテルバディ(Betelbuddy)” と呼ばれているこの未知の伴星は、ベテルギウスを周回しながら、周りを覆う塵を押しのけます。塵は光を遮るため、押しのけられた領域が見た目上明るく見え、これが変光のように見える、と研究者は考えています。もしこの説が正しい場合、ベテルギウスは数百年以内という差し迫った超新星爆発を起こす可能性は低いことになります。 この研究は、この記事の執筆時点ではプレプリントですが、2024年11月末頃にThe Astrophysical Journal誌に掲載される予定です。
「ベテルギウス」はもうすぐ超新星爆発を起こすのか?
オリオン座の「ベテルギウス」は、冬の1等星の代表的な存在ですが、近代天文学でも注目を集めています。まず、ベテルギウスは太陽以外では最も見た目の大きさが大きい恒星であり、近代の望遠鏡の精度とデータ処理能力の向上により、表面の細かい明るさの違いも観察することが可能です。太陽以外の恒星の様子を詳細に観測することで、太陽の性質に何か特異なものがないかをテストすることができます。 次に、ベテルギウスは恒星の寿命の末期に差し掛かっており、表面が膨張した「赤色超巨星」となっています。ベテルギウスの直径は10億kmを超えており、太陽系の中心に置けば小惑星帯すら飲み込まれてしまいます。また、質量は太陽の約18倍と推定されており、その質量から超新星爆発を起こすと予測されています。ベテルギウスを観察すれば、超新星爆発のメカニズムや前兆現象を深く理解することができるかもしれない、という意味でも大きな注目を集めています。数週間にわたって昼間でも見える超新星は、一般の人々の関心も集めることになるでしょう(※1)。 ※1…なお、ベテルギウスの超新星爆発で放出される電磁波や物質が、地球環境や文明社会に悪影響を及ぼす可能性は考えられていません。 では、ベテルギウスはいつ頃超新星爆発を起こすのでしょうか? その時期については大きな議論があり、主に2つの説がありました。この背景には、ベテルギウスの変光周期をどのように解釈するかの問題が絡んでいます。ベテルギウスのように寿命が末期となった恒星は、周期的に明るさを変化させる「脈動変光星」となります。ベテルギウスも、観察する時期によって視等級が0.0~1.6等級と変化します。 長年の観察により、ベテルギウスの変光周期は416日周期(約1.14年)と2170日周期(5.94年)の2種類あることが分かっています。ベテルギウスの寿命を推定するには、どちらの周期が脈動変光星としての基本であるかを示す必要があり、そのためにはもう片方の変光が別の理由で起きていることを説明する必要があります。 ベテルギウスに関する多くの研究では、416日周期を基本としています。これは他の脈動変光星と比較し、妥当な水準の周期の長さだからです。もしこの場合、ベテルギウスの超新星爆発は、少なくともここ数十万年以内には起きないだろうと推定されます。天文学的には十分に差し迫っているものの、人間の時間スケールとしては長いでしょう。 一方で、2170日周期が基本である場合はより興味深い結果となります。ベテルギウスは本当に超新星爆発を起こす直前であり、今後数十年から数百年以内に爆発するかもしれないからです。しかしこの場合、長い変光周期を説明するためには、ベテルギウスの直径など、様々なパラメーターを変更しなければならなくなります。