独占インタビュー「鈴鹿8耐、3連覇を達成したHRCファクトリーの真実:ストラテジー編」チーム監督が明かす勝利の鍵
サインボードが伝えられる限界
問題は、走っている高橋選手にピットサインで、どう伝えるかだった。 「HRCのピットサインボードはLEDで、パソコンで文字を打てば、いくらでもメッセージが入る。でも、情報が多過ぎるとライダーが読めない。どう伝えて良いか迷ったんですが、いつも通りラップ数と(2位との)ディファレンスだけにしました」 通常はL5(残りラップ数)と+50(争っている車両との差)しか出さない。それがいきなり+50から+10になったのだから、ライダーは理解に苦しむ。高橋選手は当初、違うチームのサインボードを見たのかと思ったと言う。でも、次のラップも……最終的にリードはひと桁になったが、ラップタイムをキープしていれば大丈夫だろうと判断。その通り無事チェッカーフラッグを受けた。40秒を加算すると、2位YARTヤマハとの差は、僅か7秒860秒だった。 「こんな時(ペナルティを受けたなどの場合)にどう伝えるのか、要検討ですね。完全にチームの運営のミスです。ライドスルーだったらP(ピットイン)でもいいですけど……PENALTYと出すとピットインしてしまうかもしれない。難しかったですね」 サインボードでしか伝達手段のないEWCだからこその混乱だった。MotoGPではインパネにイエローフラッグやセーフティカーなどのコーションや、ペナルティが表示される。さらに無線(ピットからライダーへの一方通話)も実験に入っている。 SST1000などアマチュア色の強いEWCでは、MotoGPのようにはいかないかもしれないが、せめてイエローコーションやペナルティだけでも知らせる簡単は液晶表示機器があってもいい(トランスポンダーも積んだのだから)──こうして、すべて順調だったわけではなかったが、結果はほぼ完勝だった。 「YARTヤマハがあのまま良いペースで行っていたら、どうなっていたか……」 YARTヤマハは、第1スティントでソフトタイヤをチョイスし、後半タイヤがタレでラップタイムを落としていた。なぜ、ソフトを選んだのか。 「実は事前テストのときから、ヤマハさんは軟らかめのタイヤをテストしていて、ロングランもこなしていたから自信があったんだと思います。同じBSタイヤを使っているのですが、ヤマハさんのマシンは、そこまでタイヤをツブさなくても旋回性やグリップを得られるんでしょう。だから軟らかめのタイヤを履ける」 対してCBR1000RR-Rファイアブレード/SPは、硬いタイヤをしっかりツブして旋回性やグリップを得ていくから、ヤマハとは対極の特性だ。 「今年は、天候にも助けられて概ね順調だったと思います。暑くなればラップタイムが落ちるので、燃費的には楽なるので。まあ、来年に向けてハードもソフトもヤルことはまだまだあります」 レポート●石橋知也 写真●柴田直行/Honda 編集●上野茂岐
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