独占インタビュー「鈴鹿8耐、3連覇を達成したHRCファクトリーの真実:ストラテジー編」チーム監督が明かす勝利の鍵
1スティント27ラップだが、名越選手に異変
名越選手の時に28ラップを敢行している。これは、なぜか? 「名越君は、テストの時から燃費が良かった。ラップタイムが安定していたので『引っ張れる時は引っ張るよ』と、言ってありました。実はセーフティカーが入った時に引っ張ると、7回ピットで行ける。セーフティカーはコースのクリーンナップなどで5~6ラップかかるので。だからできるだけ引っ張っておきたい。燃費からすると27、28ラップが限界なんです」 「出力を落とせば7回ピットでもいけるのですが、するとラップタイムが落ちる。出力と燃費の兼ね合いなんです。2分8秒台で行くと28ラップが限界です。巧君とザルコでは、28ラップは無理です。それで27ラップずつで、セーフティカーが入らずに2分8秒台で走ると、7回ピット(8回走行)ではなく8回ピット(9回走行)になる。7回ピットだと最後に燃料が中途半端に足りなくなるんです」 そして今年は、高橋→ザルコ→名越という順番で回していって、8回ピットなら、最後は名越選手になるはずだったが、チェッカーライダーは高橋選手になった。 「当初は名越君のハズだったんですが、(2回目の走行の時に)脱水症状を起こしてしまったんです。(それで乗せたら)危ない……何かあったら転倒の危険性もある。脱水症状を1回起こすと、完全に回復しないんです。巧君の方はまだ余力があったので、行ってもらったんです。でも、気温が非常に高い環境だったので巧君も最後は脱水症状を起こしたんです」 「今年は暑さが相当キツかったと思います、ライダーには。名越君は一番暑い時間帯(午後1時30分頃~午後2時30分頃)に良いペース(チーム最多の28ラップ)で走っていたんですけど、2回目の走行(午後4時30分頃~午後5時30分頃)では、後半ラップタイムが2分10秒台に落ちてしまい、『これはダメだ』と判断して早めに入れたんです(26ラップでピットイン)。恐らく、ブレーキを満足にかけられなくなったんじゃないかと思います」 これが、名越選手を襲った脱水症状だった。だが、ライダーからの合図(体調が悪いなどのサイン)はなかった。 「もっと早く気付いてあげられれば良かったんですが。彼は責任感の強い男なんで。ピットアウトして数ラップで、『ヤバイな』と思っていたらしいんです。ライダーは『大丈夫です』と言うものなんです。あの時も彼は『イケます』と言って出走していきました。この時点で8回ピットになるなと思っていました。それで巧君に(最終スティント担当を)打診したら、やはり『イケます』という返事だった。」 チームはスタートを高橋選手に託し(27ラップ)、以後ザルコ(27ラップ)→名越(28ラップ)→高橋(27ラップ)→ザルコ(27ラップ)→名越(26ラップ)→高橋(25ラップ)→ザルコ(23ラップ)→高橋(10ラップ)とつなぎ、合計220ラップの新記録で優勝した。 8回ピットに変更し、イレギュラーで高橋選手は計4スティントを乗ることになったのだが、高橋選手は金曜日の夜間走行(フリー走行)を走っていない。金曜日の夜間走行では、ザルコ選手と名越選手が走っている。 「元々予定になかったんです。巧君はこれまで夜も経験してるので、ぶっつけ本番でも問題ない。ザルコがけっこう気遣ってくれていて、『いきなり真っ暗じゃ(巧君も)乗り難いだろうからと、(ラップ数を短くして)明るい内に交代しよう』と。本当は残り4、5ラップで交代しても良かったんですが。そう提案してくれたんです」 名越選手が脱水症状を起こした時点で、第8スティントを担当するザルコ選手が、最終スティント(チェッカーライダー)を担当する高橋選手の走りやすさを顧慮しての提案だった。自分のスティントをショートにして(午後7時8分過ぎ)、残り10ラップを高橋選手に任せた。ザルコ選手でダブルスティンという手もあるが、そうなると33ラップ(第8スティント23ラップ+最終スティント10ラップ)になってしまい、身体がキツイし、タイヤもキツイ。 そこでリードも充分だから、タイヤを新品に交換し、10数ラップ分の燃料補給をし、ライダーも交代。8回目のピットインは、スムーズに終わったかに見えた。
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