患者の負担を減らす放射線治療― ガンマナイフの仕組みやメリット・デメリットを知る
◇ガンマナイフはどんな病気の治療に使えるのか
日本国内においてガンマナイフによって治療できる病気は、頭蓋内の悪性腫瘍(転移性脳腫瘍、神経膠腫(しんけいこうしゅ)、悪性リンパ腫、軟骨肉腫など)および良性腫瘍(聴神経腫瘍、髄膜腫、下垂体腫瘍、頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)、血管芽腫(けっかんがしゅ)など)、脳動静脈奇形などの血管障害、三叉神経痛(さんさしんけいつう)などの機能性障害で投薬による痛みのコントロールが困難なものとなっています。なかでももっとも多いのは、悪性腫瘍です。特にがんが脳に転移した転移性脳腫瘍では、がんで患者さんの体力が落ちているケースが多いため、手術や化学療法といったほかのがん治療より患者さんの負担が少ないガンマナイフによる治療が適しているといえるでしょう。 ガンマナイフで治療が可能な転移性脳腫瘍は一般に長径がおおよそ30ミリ以下とされています。ただ、腫瘍の種類や生じた部位などによって治療方針は異なるので、一概にはいえません。 また、外科手術とガンマナイフを組み合わせて治療するケースもあります。たとえば聴神経腫瘍の場合、周囲に聴覚や表情筋を司る神経が存在するため、良性腫瘍であっても聴力障害や顔面神経麻痺といった後遺症が懸念されます。そういったデリケートな部位の病変では、先に手術で腫瘍をある程度摘出してから、残った部分にガンマナイフ治療を行い、合併症を避けつつ治療効果を上げるといったことが行われています。 なお、ガンマナイフ治療にかかる治療費は、入院費用や検査費用を合わせて約60万円程度となっています。いずれも公的保険が適用になるため、患者さんが負担する治療費は3割負担で約20万円程度です。
◇ガンマナイフ治療のメリット・デメリット
ガンマナイフのメリットは、外科手術が難しいケースでも治療ができることでしょう。たとえば頭蓋底と呼ばれる脳の深い部分にできた腫瘍は、周囲に大事な血管や神経が通っているため、外科手術での切除は非常に困難です。しかしガンマナイフなら、ピンポイントで腫瘍に照射できます。 患者さんの身体への負担が少ないことも、ガンマナイフのメリットの1つです。高齢などで体力的に全身麻酔での開頭手術が難しい患者さんでも、ガンマナイフ治療なら可能なケースは少なくありません。 また、ガンマナイフは、例えば転移性脳腫瘍が複数個あっても多くの場合1回の治療で全てを照射できるため、治療期間も短縮できます。 以前は多発した転移性脳腫瘍に対して、脳全体に放射線を照射する”全脳照射”という放射線治療が行われていました。しかし全脳照射は合併症として脳の認知機能に影響を与えてしまう可能性があり、加えて全脳照射は原則として1回しかできません。対してガンマナイフ治療では、病巣だけにピンポイントで照射するため、何度でも治療が可能です。また、すでに全脳照射を受けている患者さんであっても、ガンマナイフ治療は多くの場合可能です。 メリットの多いガンマナイフ治療ですが、もちろんデメリットもあります。その1つは、ガンマナイフには外科手術のような即効性がないことでしょう。外科手術なら、病変部が切除できたかどうかを視認でき、全摘出されれば術後は病変部が無くなる、ということになります。一方、ガンマナイフ治療では、腫瘍など照射した病変部が本当に抑え込むことができているのか、長く経過をみないと判断できません。 またガンマナイフ治療は全脳照射より副作用が少ないとされていますが、病変周囲の脳組織に放射線障害が出る可能性もゼロではありません。非常にまれではありますが、放射線の影響で良性腫瘍が悪性化したり、放射線誘発性腫瘍ができたりといった合併症も報告されています。さらには、放射線による脳壊死が治療から5年以上経ってから出ることもごくまれにあります。