なんと、深海の熱水孔より「高温の熱水を噴き出すスポット」が陸上にあった…「生命誕生は陸上」説で生じる謎と「うまい具合のシナリオ」
「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」 圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか? 【画像】海底熱水噴出孔と陸上温泉、そして「生体そのもの」の組成を比べてみると… この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。本書刊行を記念して、その読みどころを、数回にわたってご紹介しています。 今回は、深海底の熱水噴水孔に対して、同じように熱水環境にある陸上の温泉における生命誕生の可能性を探ります。 *本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
新しい「系統樹」
前回の記事でご紹介した熱水噴水孔が、深海底で相次いで発見された、その頃、生物学では進化の研究について、新たな方法が用いられるようになっていました。 ダーウィンは、すべての生物を形態で比較して樹の枝のようにつないだ「生命の樹」を考えましたが(図「生命の樹から分子系統樹へ」の左[ダーウィンの「生命の樹」])、20世紀後半になって核酸の塩基配列が調べられるようになると、形態のかわりにこれを使って「分子系統樹」をつくることが可能になったのです。 米国イリノイ大学の生物学者カール・ウーズ(1928~2012)は、すべての生物が持っているリボソームRNAの塩基配列を用いた、分子系統樹をつくりました。 この系統樹では、すべての地球生命は共通の祖先から進化したものとなります。 共通の祖先はまず、原核生物の2つのタイプ、バクテリア(真正細菌)とアーキア (古細菌)に分かれます。 次にアーキアから、ユーカリア(真核生物)が分かれます(図「生命の樹から分子系統樹へ」の右[ウーズの分子系統樹])。では、この系統樹の根っこにいると考えられる共通の祖先とは、どんな生物だったのでしょうか。この生物は現存していませんので、系統樹で近くに位置する現存の生物から類推するしかありません。 調べてみると、バクテリア、アーキアのどちらの枝でも、根元に近い生物は80℃以上のお湯の中で繁殖する「超好熱菌」が多いことがわかりました。現在知られている、最も高温で繁殖する微生物は、日本の海洋研究開発機構(JAMSTEC)のグループが海底熱水系で見つけたもので、「Methanopyrus kandleri」とよばれる、メタンを生成するアーキアです。この生物は、122℃でも生育しました。 一方、東京薬科大学の山岸明彦たちは、現存する微生物が持っているタンパク質のアミノ酸配列を、遺伝子工学の手法によって、共通の祖先と推定される生物のものに近づける方向に改変していったところ、より高温に耐えられるタンパク質に変わっていくことを見いだしました。