なんと、深海の熱水孔より「高温の熱水を噴き出すスポット」が陸上にあった…「生命誕生は陸上」説で生じる謎と「うまい具合のシナリオ」
陸上温泉派が指摘するカリウム濃度
サザーランドたちの方法でヌクレオチドをつくるにしても、何段階もの反応を、温度やpHを変えながら進める必要がありますので、海水中は適していません。これらのことから、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のデヴィッド・ディーマー(1939~)らは、生命誕生の場所は陸上の温泉だったと強く主張しています。 ディーマーたちがとくに注目するのは、現生生物の細胞内ではカリウム濃度が高いことです。私たちの体を構成する元素の中ではナトリウムが比較的多く、カリウムは少ないのですが、ナトリウムの多くは細胞外に存在しますので、細胞内ではむしろカリウムのほうが、若干ですが高濃度なのです。 本記事2ページに掲載した表「各試料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の濃度」をもう一度みてください。この表にはさまざまな水や生物中のナトリウムとカリウムの濃度も載せています。海水中は、ナトリウムのほうがカリウムより圧倒的に高濃度です。彼らは、生命の誕生した場所にはカリウムが多かったに違いない、と考えました。 海底熱水系や陸上温泉(表では代表例としてイエローストーンの間欠泉を載せました)は、ナトリウムに対するカリウムの割合(K/Na)は海水よりも若干高いですが、濃度はカリウムがナトリウムより1桁ほど低くなっています。
必須金属類では海底熱水系に軍配
カリウム濃度が高いという条件に合う場所は、カムチャツカ半島で見つかりました。ここにあるムトノフスキー火山から噴出するガスが水と蒸気に分離しているのですが、蒸気に多くのカリウムが含まれるため、これが凝縮してできた水にはカリウムがナトリウムよりも4倍ほど多く含まれていたのです。 現在では、これほどカリウムが多い陸上温泉はカムチャツカ以外にはあまり見つかっていませんが、ディーマーたちは、このような陸上温泉が原始地球上にはたくさんあったのではないかと考えました。 なお、地球生命に必須とされる亜鉛などの金属も、カムチャツカの温泉水は海水よりもかなり高濃度に含んでいますので、これも陸上温泉説とは矛盾しないとされています。ただし、それらの必須金属は海底から噴き出す熱水のほうが圧倒的に高濃度に含んでいますので、この点では海底熱水系に軍配が上がります。