なんと、深海の熱水孔より「高温の熱水を噴き出すスポット」が陸上にあった…「生命誕生は陸上」説で生じる謎と「うまい具合のシナリオ」
共通の祖先は、「超好熱菌」だったかもしれない
これらのことは、共通の祖先はやはり超好熱菌だった可能性が高いことを示しています。さすがに300℃以上の熱水は、生命が生きていくには熱すぎますが、海底熱水系には超高温の海水から0℃くらいの通常の冷海水まで、さまざまな温度の場所がありますので、超好熱菌にとってもちょうどよい温度の環境が必ずあります。 海底の熱水噴出孔から噴き出される海水の特徴も、ここが生命誕生の場所ではないかという考えを後押しします。原始地球大気にはメタンやアンモニアがあまり含まれていないことがわかったので、地球上でアミノ酸などが生成しにくいのではと考えられるようになったことを、以前の記事で述べました。 ところが、熱水噴出孔から噴き出す海水は、メタン・アンモニア・水素などを高濃度に含む「強還元的」なもので、ミラーが考えていた原始地球の環境に近いのです。
熱水噴出孔は、必須元素が高濃度だった
しかも高温のため、鉄や亜鉛、銅、マンガンなどさまざまな金属イオンを通常の海水や湖水などよりはるかに高濃度に含みます。これらは地球生物が生きていくうえで欠かせない必須元素です。 たとえば亜鉛は、通常海水には0/001ppm(ppmは100万分の1を表す単位で1ppm=0.0001%)以下しか含まれませんが、海底から噴き出す300℃の熱水中には、数ppmの亜鉛が含まれるのです(表「各試料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)の濃度」)。 ただし、高温環境ということでいえばイエローストーン(米国)など、陸上でも1000℃近くの高温の熱水を噴出する場所があります。ここから、生命が生まれたのは陸上温泉か海底温泉かという論争が勃発するのです.。
生命誕生の場所は海か陸か
生命の起源はきわめて学際的な研究分野ですので、天文学から分子生物学まで、さまざまな分野の研究者が参入しています。分子生物学はもともと、核酸(DNAやRNA)の構造と機能の解明を目的として始まった学問ですので、その出身者は生命については核酸による自己複製の機能を非常に重要視する傾向があり、また、生命の起源においてはRNAワールドを強く支持する傾向があります。 とにかくも、まずRNAを無生物的に生成する必要がありますが、それには核酸塩基→ヌクレオシド→ヌクレオチド→オリゴヌクレオチドというように、何段階も水を抜きながら結合する必要があります。 RNAワールドの泣きどころは、RNAをつくることがタンパク質をつくるのと比べてはるかに複雑で大変だということで、拙著『生命と非生命のあいだ』では、その辺りを詳しく解説しました。 そんななかでRNAワールド派の研究者たちを驚喜させたのが、ヌクレオシド、さらにはヌクレオチドが「生物誕生以前の環境条件で」できてしまうという英国マンチェスター大学のジョン・サザーランド(1962~)のグループが、2009年に『ネイチャー』誌に発表した論文です(図「〈生物誕生以前の環境条件〉でのヌクレオチドの合成」)