世界3大スパークリングワインの一つ、カヴァの世界を堪能。その品種や歴史、そして魅力とは? ワインジャーナリスト浮田泰幸さんがスペインを訪ねてリポート
ローマ時代のアンフォラを模した「立たないボトル」に入った逸品
時間の恵みという点では一枚上手なのが「セジェール・クリプタ」の看板商品「クリプタ」(15000円前後)である。これは8年間という破格の熟成を経てから澱引きされる極めて特殊なカヴァ。 セジェール・クリプタ(旧アグスティ・トレジョ・マタ)は、1953年にアグスティ・トレジョ・マタ氏がワイン研究所を立ち上げたことを発祥とするボデガ。ペネデス地方の環境の異なる三つの地区──沿岸、盆地、高地──に畑を有し、それぞれに適したブドウを栽培(いずれも樹齢は50年以上)。糖分添加ゼロのブルット・ナチューレと極少量の糖分を添加するエクストラ・ブルットのみ、格付けで言うとレセルバとグランレセルバに特化したカヴァ造りをおこなっている。 沿岸地区の畑で穫れるマカベオを主体にしていることもこのボデガの特徴。マカベオ100%のカヴァも造っていて、それには収穫日を3回に分けた果実を使う、樽熟成をかけたベースワインを使うなど、独自の工夫を凝らす。 「並外れたカヴァ」を目指したトレジョ・マタ氏はローマ時代のアンフォラ(ワインや水の貯蔵・運搬に使われた甕〈かめ〉)にインスピレーションを得て、その形をワインボトルに取り入れることを思いつき、ガラス工房に特注して瓶底の尖ったユニークな外観を創り出す。そうして1978年に生まれたのが「立たないボトル」に入ったクリプタ(地下聖堂の意)だった。 見た目の奇抜さだけでなく、中身のカヴァのクオリティーが好評を博し、“世界で一番予約の取れないレストラン”として一世を風靡した「エル・ブジ」(2011年閉店)に採用された他、国内のグルメガイドでスパークリングワインのトップに選ばれるなど、プレステージを獲得している。 繊細な泡立ち、焼きリンゴを思わせる香りとミネラル感、口の中では厚みが感じられ、後口にドライフラワーの風味が残る。食事のメインコースに合わせても、料理と堂々と渡り合いそうなスケール感のあるカヴァだ。