「子どもと向き合う時間が絶対に必要だと思った」――セクシーさを封印して、よきお父ちゃんに 高橋克典の年齢の重ね方
恋愛ドラマが苦手だった
いつの時代も、そのとき視聴者が求めるものを考えながら演じてきた。 「例えば、(特命係長)只野仁をやっていた時期は、テレビドラマにもうおもしろいものがなくなっちゃったみたいなムードがどこかにある気がして。じゃあ、週末の遅い時間にはどんなものをテレビで見たいだろうと考えました。1週間の疲れを癒やせるもの、週末の街の妖しさ、笑い、アクション、カタルシス。少し沁みて、すごく楽しいもの。そこに身を投げました」 さまざまな役柄を演じてきたが、意外にも苦労したのが「若いころにやっていた恋愛ドラマ」だという。 「特にメインスタッフが女性の作品は、要求されていることにうまく反応する神経が自分になかったんですよね。エンターテインメントですから、女性から見たときの理想を演じるわけだけど、誰も具体的には教えてくれなかったんですよ。当時は若さゆえか、男っぽい骨太なものばかりに傾倒していたので、ほんとうに苦労しました。芝居だって常に手探りで、いろんな人に話を聞いたり、演技の本を読んでみたり、芝居下手な分は思いをのせるからどうか届きますようにと願ってみたり」 役と自分をパッと器用に切り替えられるタイプではない。若いころのように、四六時中ずっとその役でいるみたいなことはなくなったが、そのときに演じている役柄が日常に影響することは今もあるという。 「ねじ工場のやさしい父を演じたと思ったらホームレスになったり、そしてすぐに総理大臣になったり。最初は『総理!』と呼ばれても、『誰のことや?』と思って、廊下の真ん中を歩けない。どれがほんとうの自分なのか、わからなくなることは、今もあります。職業病ですね。役柄で演じている自分を取り払ってみると、何もなかったりする。その感覚はとても怖いです。いつもどこかに役があって、それを忘れないように生活しているから」 高橋さんにとって、それはネガティブなことではなく、「刺激的なこと」だ。 「だから家庭があることがありがたい。自分の戻るべき、自分を確認できる場所ですね。やっと少しいい時期になってきたかなという気がします。いろんなことをやってきた自分が自然に集まって、自分というものを作っているのかなあって。僕はこの仕事が好きだし、エンターテインメントがもっている力を今でも信じています」