全日本新人王戦で採点発表が集計ミスで覆る異例のドタバタ…勝者はジム閉鎖の逆境を乗り越えた珍名ボクサー「宝珠山」
高校時代のあだ名は“疫病神”。「おまえがついてくるとチームが負ける」と言われ、いつのまにか「神社にいってなかったから負けた」「ゲンを担いでいなかったから負けた」と思うようになった。スポーツ推薦で入った日大時代も、ほぼ“補欠”だった。だが、プロ入り後に心理学の本と出会い、その思考が劇的に変化した。 「マインドを変えたんです。負けるのはゲン担ぎをしていなかったせいじゃない。自分の実力がないだけなんだよ。勝つために何をするかが大事。それを具体的にイメージして取り組むこと」 すると、唇が真っ青になるほどの緊張もなくなり、試合に集中できるようになった。現在5戦5勝。新型コロナ禍で、バイトしていた博多ラーメン店で働けなくなり、ウーバーイーツの配達員で食いつないできた宝珠山は、「まずは6回戦に勝って上に上がっていき、盗まれた自転車をボクシングで買えるようになりたい」と笑う。 「将来は、ただの世界王者ではなくスーパーチャンピオンになりたい」が大目標。日大時代は、亀田和毅や井上拓真のスパー相手を務め、白井・具志堅ジムに入門後も、同ジムの比嘉大吾や江藤光喜らの世界王者らと拳を交えた。 「大学時代はボコボコにやられたりもしたけれど世界王者の力を肌で知っている」のが強み。そして宝珠山は、「僕はひねくれた人間。でもボクシングを通じて人としてみんなに愛され、自分で自分を認められるような立派な人間になりたい」と言う。 ちなみに宝珠山は「ほうしゅやま」と読む。よく「ほうじゅさん」と読み間違われる全国に200人ほどしかいない珍しい苗字だが、この「宝」は、新字字で、本名は旧字体を使い、そうなると大分県の彼の一族、数人しかいないという珍名である。大分と福岡の県境には「宝珠山」という山があり、祖先は、そこにあったお寺だという。 珍名ボクサーが採点間違いの珍事で新人王。今後、「これだ!」という武器を磨いていく必要はあるが、何かを持っているボクサーなのかもしれない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)