全日本新人王戦で採点発表が集計ミスで覆る異例のドタバタ…勝者はジム閉鎖の逆境を乗り越えた珍名ボクサー「宝珠山」
逆境を乗り越えてきた宝珠山のボクシング人生を象徴するような試合だった。サウスポースタイルの宝珠山は「前に出る」という作戦通りに1ラウンドから積極的に手を出してスピード感あふれる出入りのボクシングでペースをつかみかけた。だが残り1分を切ったところで「見えなかった」というノーモーションの右ストレートを正面から浴びてしまう。腰を落としかけながらも、なんとか両足で踏ん張ったが、続く2ラウンドの終了間際に、今度は、左フックを打ち込まれて左膝をキャンバスについた。「ダウン」のコールが場内に響いた直後に追撃の右のアッパーが飛んできた。無防備の状態でパンチを受けた宝珠山はコーナーに吹っ飛んだ。尻餅をついた宝珠山は、左のグローブを突き出して「反則だ!」と猛抗議をした。 「バチンと。倒れた後のパンチが一番効きました(笑)。なんでや?と無意識で反則をアピールしていました」 ルールに従い神崎のダウン後の加撃に減点「1」が科せられた。 本来なら「8-10」と採点されるラウンドが「8-9」となり、ここから宝珠山は、冷静に反撃を開始した。3ラウンドには左右のボディ攻撃から左のアッパー。4ラウンドは、至近距離での激しい打ち合いとなったが宝珠山は前進を止めなかった。 「神崎君は上手いし強かった。パンチが効いていて足も動かなかった。でも最後まで前に出る、やりきろうと」 最後の5ラウンドも宝珠山はインファイトを仕掛けた。レバーをえぐるような右ボディから得意とする左ストレートを放った。 日大卒業後に入門した白井・具志堅ジムが昨年6月に突如、閉鎖が決定した。寝耳に水だった。7月末から始まる新人王にエントリーしていた宝珠山は、所属先を失い「ショックでした。頭が真っ白になった」という。だが、三迫ジムが救いの手を差し伸べてくれた。東福岡高校時代にたまたま同じクラスで「ホ」つながりで出席番号が近く、中学でバレー部だった宝珠山をボクシング部へ誘ってくれた保坂剛が同ジムに所属しており、その“仲立ち”もあって三迫貴志会長が救済に動いた。 サウスポーということでWBC世界ライトフライ級王者の寺地拳四朗(BMB)のスパー相手を務めたこともあり、三迫会長も「プロになって強くなっている。可能性がある選手」と、その実力を認めていた。 「災い転じて福となすです。三迫ジムに移籍していなければ新人王はとれていません。会長や加藤トレーナーら三迫ジムの皆さんの指導があり“引き出し”も増えました」 これまではインファイトが、ほとんどできなかった。この試合でも右のショートボディが効果的だったが、「あれも三迫で覚えたパンチ」だという。 今回の全日本新人王決定戦には、三迫ジムから3人が出場予定だったが、スーパーライト級の兒玉麗司(21)が、2日前、前日と2度のPCR検査で新型コロナの陽性反応が出て欠場となった。兒玉には「おまえの分まで戦ってくる」とラインを送った。ライトフライ級では狩俣綾汰(25)も勝利。三迫ジムから2人の新人王が誕生し兒玉の悔しさを晴らした。