凝縮された「真剣度100%」9分間…井上尚弥は「LEGEND」で圧倒した比嘉大吾とのスパーで何を証明したかったのか?
新型コロナと戦う医療従事者と患者を支援するチャリティーボクシングイベント『LEGEND』が11日、代々木第一体育館で2548人の観客を集めて開催され、勝敗のつかない3分×3ラウンドのエキシビションマッチが7試合行われた。メインカードではWBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の井上尚弥(27、大橋)が、元WBC世界フライ級王者で、現WBOアジアパシフィック・バンタム級王者の比嘉大吾(25、Ambition)を相手にレベルの違いを見せつけ、比嘉の剛腕を完璧に封じ込めた。”近未来カード”として注目されていたが、井上は「真剣度100%。満足している」と胸を張り、比嘉は「現時点では(勝つのは)厳しい」と白旗を上げた。 またデビュー戦前の元K-1王者の武居由樹(24、大橋)は元WBO世界フライ級王者の木村翔(32、花形)を圧倒。注目の五輪代表vsプロ王者のプロアマ対抗戦では、ウェルター級五輪代表の岡澤セオン(25、鹿児島県体協)が日本スーパーライト級ユース王者の佐々木尽(19、八王子中屋)をスピードとトリッキーなボクシングで手玉にとってメダルへの期待を高めた。
「あえて打ち合いも。いろんな戦いを見せた」
井上尚弥は笑っていた。 当初の予定通りに第3ラウンドを前に両者がヘッドギアを外すと会場のファンから拍手が起きた。“ガチ勝負”のラウンドである。最初は左ジャブからのオーソドックススタイル、次にサウスポースタイルにスイッチ。さんざん“遊んだ”井上は、ガードを固めてロープに背をつけていた。15連続KOの日本タイ記録を持つ豪打が自慢の比嘉にわざと打たせたのだ。 「ロープを背負ってもいけるなと肌で感じて、ああいう戦いをした。きょうは自分のことより見てくださるファンがどう感じてくれるか。そこだけだった」 比嘉は、ボディから左右フックのラッシュをかけるが、井上は両手を完全に下げて“気を付けの姿勢“でノーガードにして、上体をひょいひょいと動かし、その至近距離でパンチをことごとく見切った。そして応戦。打たれた数だけ右のショートアッパーを返す。1発、2発、3発…。再び1発、2発、3発…の5連発。被弾した比嘉は、思わず顎を上げ、ガクンと頭を後ろへとのけぞらせた。「LEGEND」の大会名にふさわしくモハメド・アリがジョージ・フォアマンとの“キンシャサの戦い”で見せたロープアドーブを再現したようなシーンだった。 あえて壮絶な殴り合いを演出した井上は「打ってこいよ!」とグローブでジェスチャー。そしてニヤっと笑った。比嘉が必死でパンチを繰り出すが、神技とも言えるディフェンステクニックの前に一発も当たらない。井上が逆に押し返して左右のパンチを放ったところでゴング。会場は、9分間に凝縮されていた本物の”井上ワールド”を堪能した感動の空気に包まれ、やがて、それは大きな拍手に変わった。 「久々の日本でのイベントだったのでやりがいがあった。自分の距離でやるだけでなく比嘉の距離でもやろうかなと。打ち合いもディフェンスも距離を取りながらも、いろんな戦いを見せられればいいなとスパーをした。動きには満足できた。いい出来だったと思う」