<胃や腸の痛みで疑われる消化性潰瘍>2大リスク要因はピロリ菌と非ステロイド性抗炎症薬、実は課題の多い診断手法
消化性潰瘍のリスク要因の一つ「ピロリ菌」
消化性潰瘍を起こしやすくするリスク要因はいろいろあるが、中でも2大リスク要因と呼べるのが、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用である。日本の研究では、消化性潰瘍患者の約半数がこの2つの要因であったことを示している。近年ピロリ菌感染は減少傾向であるのに対して、NSAIDの使用は増加している。 ピロリ菌は口から感染し、菌は胃の中で生息する。この感染は慢性胃炎、消化性潰瘍、胃がんなどと関連している。多くの場合、小児期に感染すると言われていて、衛生環境によっては家庭内感染も認められる。
世界全体で見ると、ピロリ菌感染の有病率は一般人口の44~49%であるが、地域や人種的背景によって大きく異なっている。開発途上国で高い。 そのピロリ菌を発見し、胃炎と消化性潰瘍の発症におけるその菌の役割を解明したのは、西オーストラリア大学のBarry J. Marshall教授とロイヤル・パース病院のJ. Robin Warren博士である。その業績により、彼らは2005年のノーベル生理学・医学賞を受賞している。 受賞者の経歴などを公開しているノーベル賞の公式ウェブサイトでは、彼ら2人がどうやってピロリ菌の研究を進めたかのエピソードが自伝風に綴られていて興味深い。 1981年、2人が最初に出会ったのは、Marshall教授がまだ内科の専門研修医だった時で、当時病院の病理部門にいたWarren博士が進めていた手術で切除された胃や十二指腸から見つかる「不思議な螺旋状の細菌」の正体を解明する研究を手伝うように指導教官から勧められたことがきっかけだった。 こうして臨床医と病理学者が協力することで、その「不思議な螺旋状の細菌」が胃炎や消化性潰瘍を引き起こす原因菌であることが証明され、「螺旋状の」を意味する「helical」と胃の出口(幽門 pylorus)の付近でこの菌が多く発見されたことから、この菌は「ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)」と命名された。