ドル円レートが狭いレンジで推移 なぜ為替変動が縮小?
ドル円レートの為替の変動幅が狭い状態が続いています。それはどんな要因が考えられ、日本経済にどんな影響を与え得るのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
過去3年は年間値幅が10円前後で推移
ここ数年、ドル円レートが不可解なほど狭いレンジで推移していることが話題になっています。ドル円の年間値幅(高値と安値の差)は2017年が約11円、2018年が約10円、2019年が約8円と縮小傾向にあり、2020年は7月21日時点で約10円です。いずれの年も変動相場制が始まって以降の最小値近辺に収まり、過去数年のドル円レートは僅かな例外を除いて108円±5円程度で推移しています。コロナ危機で金融市場に暴風雨が吹き荒れた3月ですら、大半がそのレンジに収まっていました。
過去10年の米国のFF金利は0~2.5%
ところで、為替取引は大きく分けて(1)実需取引、(2)投機的取引の2つに分類されます。厳密な区分はありませんが、実需取引とは輸出入に伴う決済(為替ヘッジ目的の先物取引も含む)、或いは海外企業の買収などモノや権利の移転に付随して発生するものです。それに対して投機的取引とは個人投資家の外国為替証拠金取引(FX)、或いはヘッジファンドに代表される利ザヤ狙いの取引を指します。 筆者はここ数年におけるドル円の為替変動の縮小は、投機的取引が物静かになったことにその理由を求めています。では、なぜそうなったかというと、それは米国の低金利が常態化したからです。ここで米国の政策金利であるFF金利の推移を振り返っておくと、2008年のリーマンショック局面で0%近傍へと低下した後、15年12月まで0%に据え置かれました。その後、2018年12月までに2.5%へと引き上げられましたが、今度は2019年7月から11月にかけて1.75%へと引き下げられ、そしてコロナ危機が発生した2020年3月には再び0%近傍に戻りました(FF金利は簡易化のため上限を表記)。つまりこの10余年の間、米国の政策金利は最も高い時でさえ2.5%だったわけです。リーマンショック発生前の2007年前半に5.25%だったことを踏まえると、大きな変化といえます。 次に為替と金利についてですが、他の条件が一定の下では、おカネは金利の低いところから高いところへ流れます。たとえば現在の日本の金利が0%、米国金利が5%なら投資家は円を売ってドルを買うはずです。またこの状態で米国の利上げによって内外金利差の拡大が予想される場合、投資家は円を売ってドルを買う動きを一段と加速させるでしょう。