ACP(人生会議)って何ですか?
「人生の最終段階」のため?
2018年に、厚生労働省は、ACPの普及促進のために、「人生会議」という呼び名を提唱しました。人生について話し合うことを強調する意図は理解できますが、ACPの日本語訳としてはしっくりせず、よりわかりにくくなったという声もあります。 厚生労働省によるACPの定義は、現在、次のようになっています。 「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」 私が違和感を抱くのは、「人生の最終段階」だけに焦点が当てられていることです。この概念が生まれたルーツがそこにあるので、仕方ないのですが、患者さんにとっては、最終段階だけでなく、「今」も重要で、今どのように生き、どのような医療を受けたいのかという希望も語り合う必要があります。 せっかく新しい概念を持ち込むのであれば、「人生の最終段階」だけの話にするのではなく、常に患者さんの価値観を重視するような医療のあり方を目指した方がよいのではないか、というのが私の率直な思いです。
「夫とのんびり旅をしたい」「家で過ごしたい」……
がん研有明病院では、2017年から、ACPの取り組みが始まりましたが、「人生の最終段階」以外にも目を向けていました。 患者さんは、大切にしたいこと、気がかりなこと、治療の目標や考え方、医療者とのコミュニケーション、家族や大切な人とのコミュニケーションなどについて、質問紙に記入し、医療者は、その回答内容を見ながら、患者さんやご家族と面談を行い、面談結果を電子カルテに記載し、医療者間で情報を共有してその後の診療に役立てます。 「今の抗がん剤はそれほどつらくなく、効いているなら続けたいです」 「孫がかわいくてね。入学式のプレゼントを何にするか考えているんですよ」 「夫と2人のんびりと旅行するのが好きで、この前は〇〇に行きました。また行きたいな」 「できるだけ入院はしないで、家で過ごしたいです」 そんな患者さんの声が、カルテにも記載されます。 この過程で、患者さんの気持ちが整理され、患者さんと医療者、患者さんとご家族のコミュニケーションが促進され、抗がん剤治療の選択や、在宅療養の準備など、患者さんの希望に沿った医療につながります。 がん研有明病院では、これがACPの形として定着しつつあり、外来でも入院でも、面談実施件数が増えています。うまくいく場合ばかりではありませんが、「面談を受けてよかった」という声はよく聞きます。 やっていることは、患者さんの価値観に照らして最善の医療を行うという、本来あるべき医療の姿にほかなりません。これに「ACP」という特別な名前をつけなくてもよいようにも思いますが、その医療を実現するためのきっかけとして、質問紙や面談は活用できそうです。