「死に至らない」から、後の世代に残る…この地球上の生命の遺伝子に残る「突然変異の痕跡」から「進化の謎」が明らかになる「驚愕のしくみ」
美しい二重らせん構造に隠された「生命最大の謎」を解く! DNAは、生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、いわゆる生物の〈設計図〉の一つといわれています。DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、その情報によって生命の維持に必須なタンパク質やRNAが作られます。それゆえに、DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。 【画像】ウイルスは、なぜ新たな感染相手を得るのか…分離したDNAウイルスがこちら しかし、ほんとうに生物の設計図という役割しか担っていないのでしょうか。そもそもDNAは、いったいどのようにしてこの地球上に誕生したのでしょうか。 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。その本質を探究する極上の生命科学ミステリー『DNAとはなんだろう』から、DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。 *本記事は、講談社・ブルーバックス『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』から、内容を再構成・再編集してお届けします。
進化に「目的」はない
突然変異、そして多様性とくれば、「進化」である。この進化に対して、僕たちは“ある誤解”をしがちである。 たとえば、鳥は空を飛ぶ〈ため〉に翼を進化させたとか、魚は泳ぐ〈ため〉にヒレを発達させたとか、最近でいえば、新型コロナウイルスはヒトを病気にする〈ため〉に誕生し、進化したとか、「生物は~の〈ため〉に」進化したという言説を聞くことがある。しかし、これらはすべて間違いである。 その理由は簡単で、生物やウイルスの進化に「目的」というものは存在しないからである。別の言い方をすると、目的というのは人間の価値観にすぎず、生物の進化の過程にはあてはまらないからである。 いったいどの鳥が、どこかの超能力者やSF信奉者、そして多くの子どもたちが希望を想い描くように、「空を飛びたい! 飛びたい!」と念じて翼をつくり出したというのか。いったいどのウイルスが、どこぞの侵略者がバラまいた兵器であるかのように、人間をターゲットにしてスプレーのようにシュッシュと噴霧されたというのか。 こうした進化の目的論的説明は、あくまでも進化のようす(「しくみ」ではない!)をわかりやすく表現するための方便として使われることはあるけれども(『DNAとはなんだろう』でも意図的にそのような書き方をした箇所がある)、学術的には間違いである。生物やウイルスは、今の僕たち人間から見て、あたかも目的をもって進化してきたかのように、結果的に見えるだけなのだ。 DNAの塩基配列に生じたランダムな突然変異を経験してきた生物が、その時点でその場所の環境に適応できたがゆえに生き残ってきた、だから僕たちの目には、その生物があたかも目的をもって進化してきたかのように見えるのである。 何度もいうが、生物の進化に「目的」は存在しないのである。
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