情報発信を通じて「最高の老後」の実現に貢献する老年科医・山田悠史先生の取り組み
◇米国における「5つのM」の活用
「5つのM」はキャッチーでシンプルな標語であるため、老年医学を専門としない医師にも意図が伝わりやすいと思います。このエッセンスが多くの医師に伝われば、高齢者診療をカバーする人材が増え、医療機関における高齢者診療の質を高めることにもつながるのではないかと考えます。 私が勤務するマウントサイナイ大学病院では、臨床現場に加え、研修医や医学生への教育でも活用されています。この「5つのM」に沿って評価して治療計画を立てていけばよいので、その分かりやすさゆえに急速に浸透していったのだと思います。 米国と日本の現状を比較すると、老年医学領域の専門医の数は米国のほうが多い状況にあります。また、米国の大学の医学部においては9人以上の老年医学の専門医を在籍させることが推奨されています(2024年9月現在)。加えて、米国においては「5つのM」に沿った診療が提供されているかどうかが、医療機関に対する評価の1つにもなっており、老年医学の分野は、国として力を入れている領域だと感じます。
◇日本における高齢者診療の展望
日本で高齢者診療を充実させていくためにすべきことは、必ずしも老年科専門医の数を増やすことではなく、高齢者診療において最低限押さえるべきポイントを浸透させることだと考えています。 すでに高齢化が進んでいる現在の状況では、今から専門医を増やそうとするよりも、米国のようにほかの領域を専門とする医師が高齢者診療にもあたれるようにするほうが現実的でしょう。決して「5つのM」である必要はありませんが、老年医学のエッセンスを広めるためにはこのような標語が効果的だと考えています。日本でも標語のようなものを作りたいと思っていますし、それを活用して高齢者診療のスキルを持つ仲間を増やしていきたいです。 また、高齢者診療に携わる者として、医療者側にも患者さん側にも、年齢によって画一的に物事を決めつけるエイジズム(年齢差別)が浸透していることは、とても残念なことだと感じます。決して簡単なことではありませんが、これからの高齢者診療を発展させていくには、人々の意識を変えていくことも必要だと考えています。 日本の高齢者診療にはほかにも大きな課題がたくさんありますが、イノベーションを起こせるよう私も日々尽力しています。