木村敬一と富田宇宙のパラ五輪100mバタ金銀メダル独占を生んだ感動の友情とライバル物語とは?
5種目に臨んだリオ大会から一転して、今大会は3種目に絞った。すべては競泳競技最終日に待つ100mバタフライをにらんだ決断であり、100m平泳ぎで手にした通算4個目の銀メダルも、あえて得意種目制覇への前哨戦と位置づけた。 迎えた約束の日。午前中の予選を木村が1位で通過すれば、富田も2位で追った。決勝戦も前半の50mを木村が1位で折り返すと、富田が2位で通過。今大会で3個の金メダルを獲得しているロヒール・ドルスマン(22・オランダ)が幾度となく割って入る展開になったが、最後は運命に導かれるように2人だけのマッチレースになり、木村が逃げ切った。 後半に右側のコースロープに身体をぶつけるなど、予選よりもタイムを落とした木村も「泳ぎはいいものではなかったけど、何でもいいから勝ちたかった。いまはとにかく嬉しい」と万感の思いを言葉に変換した後に、ちょっぴり笑顔になった。 「家に帰ってから、思い切り泣きます」 良き友、良きライバルである。 400m自由形の銀、200m個人メドレーの銅に続く3個目のメダルを、富田は「アスリートとしては失格かもしれないけど」と前置きした上で、ほかの誰でもない、憧れ続けてきた木村に続く銀ならば最高だと感激の涙とともに受け入れた。 「金メダルを目指してきての銀だったから、本当は悔しがらなければいけないのかもしれない。でも、木村君が金メダルをとってくれたことと、そこに続いて僕がゴールできたことが本当に嬉しい」 木村も富田に感謝の思いを捧げた。 「今日のレースを戦う上で、なくてはならない存在でした」 2人は時にはぶつかり合ったこともある。 富田が、取材などで「木村君に金メダルを取って欲しい」と語ることに、木村が反発。 「それを言われるのが嫌。金メダルを心から欲しいと思っていない奴と戦うってなんなんだ」と本音をぶつけた。 トップレベルで切磋琢磨してきた2人だからこそ理解し合える世界観。互いに全力を尽くしてのワンツーフィニッシュは、彼らが歩んできた友情とライバル物語のハッピーエンドである。 木村は、表彰式で表彰台の真ん中に立って君が代が流れると、家に帰るまで待てず、人目をはばからずに号泣した。メダルが放つ金色の輝きも、会場内の光景もわからない木村の涙腺を、誇らしげに聞こえてくる国歌が決壊させた。 「僕が金メダルを取ったんだと唯一、認識できる時間だと感じて。そう思うと、ここは我慢しなくてもいいかもしれないと」 出会いが中学時代にまでさかのぼる、寺西コーチも愛弟子の晴れ姿に男泣きしていた。日本スポーツ界に語り継がれていく2人の美しいドラマはパリへと続く。