赤ちゃんとパートナーを失い、食欲をなくしたパンダの「タンタン」に少しでも食べてもらうため…飼育員さんたちの「覚悟」
2024年3月31日に多くの人に見守られながら28年の長い生涯に幕を下ろしたタンタン。神戸市立王子動物園で暮らしていたパンダのタンタンは、短い手足にモフモフとした毛並みがぬいぐるみのようにかわいらしく、“神戸のお嬢さま”と呼ばれ、多くの人に愛され続けています。 【写真】「隠し撮りがバレました…」パンダと飼育員さんの微笑ましすぎるやりとり NHK「ごろごろパンダ日記」の番組プロデューサー・杉浦大悟氏は、タンタンと、飼育員の梅元さん、吉田さんの日々を見つめてきました。そんな杉浦氏がタンタンの“パン生”を辿り、執筆したのが『パンダのタンタン 二人の飼育員との約束』という本。 第一回【「懸命に赤ちゃんの世話をしていたのに…」パンダのタンタンを見守り、寄り添い続けた飼育員さんの切実な思い】で、出産したばかりの赤ちゃん、パートナーのコウコウを相次いで見送ったタンタン。竹を赤ちゃんに見立てて抱く「偽育児」を続け、食事量が極端に減ったタンタンに食べてもらうため、飼育員の梅元さん、吉田さん(以下、敬称略)は試行錯誤を繰り返します。
「偽育児」で食事量が減ってしまったタンタン
「さあ、どうしようかね?」 控え室で梅元は、吉田に声をかけた。 「どうするも何も、竹をしっかり食べてもらわな、あかんやろ」 偽育児は長いときにはひと月以上も続く。その間、食事の量が極端に落ちてしまう。すでにこのころ、タンタンの体重は減り始めていた。調子がいいときは88kg近くあるのに、この日の朝に測ったときには83kgしかなかった。つまり、5kgも減っていることになる。このまま放っておけば深刻な事態に陥る恐れがある。 吉田が指摘するようになんとかして竹を食べさせなくてはならないが、問題はその方法。すると吉田が控え室にある電話の受話器をつかみ、どこかにかけ始めた。 「もしもし、明日とってきてもらう孟宗竹、ちょっと量を増やしてもらえませんか?」 電話の相手は、山から竹を採ってきてくれる地元の笹部会の岩野憲夫。笹部会は岩野を含め3人のおじいさんが中心となって活動しており、“竹取の翁”とも呼ばれている。 その活動は週3回、神戸市内の山でタンタンが食べる竹を採取して届けること。寒くても暑くても雨が降っていても、山に分け入って竹を切ってこなくてはならないので、その仕事は想像以上に過酷だ。山には孟宗竹、矢竹、淡竹、女竹、四方竹、唐竹、真竹の7種類と季節によってそれぞれのタケノコが生えている。そのなかから吉田と梅元がチョイスした、そのときにタンタンが食べそうなものを採ってくる。