人は1万年前ネコを手なずけた?最新研究にみるイエネコ家畜化起源の謎(上)
「古代エジプト」のネコ
しかしはじめに紹介した2017年の研究(Ottoni等2017) は、近東の中でもより具体的に現在のエジプト北部から西アラビア半島のチグリス川・ユーフラテス川一帯にあたる「肥沃な三日月地帯(The Fertile Crescent)」が、イエネコの起源だとする仮説を提唱している(こちらの地図参照)。地中海最東端の沿岸地域辺り、現在のエジプト北部、アラビア半島北西部、シリアやトルコの一部などを含む。 歴史上、イエネコを本格的に日常生活と密接させた最初の文明は、古代エジプトとされる。ご存知の方も多いかもしれないが、ピラミッドなどの遺跡地から多数のネコを表した壁画が存在する。30000匹もの猫の遺体をミイラ としてまとめて保存してある遺跡地も知られているという。ネコの姿を神格化した女神「バステト(Bastet) 」さえ古代エジプト人は生み出した。そしてネコだけでなく他にも多数の動植物の家畜化に成功した事実が知られている。 ネコのミイラの写真はこちらのNatureのページ参照: 古代エジプト人が今日の日本や世界各国に見られる、いわゆる「猫ブーム」の火付け役をになった可能性は高い。そしてネコ家畜化が「古代エジプトで最初にはじまった」とする仮説は、以前から支持されてきた。今回のこの研究もエジプト仮説をサポートする役目をはたしている印象をいくらか受ける。 しかしこの「エジプト仮説」に関して、吾輩には一つ気になる事実がある。古代エジプトにおける猫のペットブーム、そして神格化は約4000年から5000年前に起きたに過ぎない。しかし先述した2007年と2017年のデータは、家畜化が少なくとも10000年以上前に起きたとするデータを示している。何千年にも及ぶ長い空白の期間、吾輩の先祖は、果たしてどこで何をしていたのだろうか? ネコの化石記録だが5000年以上前の古い時代のものは、基本的に非常に少ない。(この事実は何を示しているのだろうか? もしかすると家畜化がどのように行われたのか、そのプロセスを考察する上で、何かカギやヒントのようなものが隠されているのかもしれない。) 動植物の家畜化がいくつも古くから行われた記録が知られる、南アジア一帯にも吾輩は目を向けてみたい。以前に紹介したようにイエイヌ(犬)やニワトリの家畜化は、太古の中国一帯で初めて行われた可能性が高い。吾輩の先祖であるネコも、アジアでペット化された可能性はないだろうか? 記録上、一番古い中国のイエネコは「約5300年前」のものがある(こちらのScienceの記事参照)。これより古い飼い猫の記録がいくつも、上に述べたように近東において知られている。それではこの最古の中国のイエネコは、シルクロードなどを通して、西から運ばれてきたのだろうか? それとも古代の中国人は、独自に猫の家畜化に成功したのだろうか?吾輩としては非常に気になるところだ。 もう一つネコの家畜化における重要なミステリーがここにある。どのようにして(How?)、野生ネコの家畜化が具体的に行われたのだろうか? どうして(Why?)他の野生のネコ ── 例えばライオンやトラ、ピューマ、イリオモテヤマネコ等 ── は、(一部の例外を除いて)うまく人になつかないのだろうか? 次回にイエネコ家畜化の起源に関してもう少し探求してみたい。 ※イエネコ起源の謎(中)に続く