人は1万年前ネコを手なずけた?最新研究にみるイエネコ家畜化起源の謎(上)
イエネコの「近東」起源説
吾輩の先祖にあたるイエネコは、どこで初めてヒトと生活を共にする道を選んだのだろうか? 家畜化の起源に関する地理的な場所については、様々な仮説が今のところあるようだ。しかし地中海沿岸の北アフリカと南ヨーロッパ一帯からアラビア半島そして南アジアにわたる、いわゆる「近東(Near East)」というアイデアで、多くの研究者の見解は一致しているようだ。(注:中近東にあたるMiddle Eastは、地理学上、南ヨーロッパや北アフリカ諸国は含まない)。吾輩のヒゲもひくひくとあちらの方向を指しているので、間違いあるまい。 先述したDriscoll等(2007)の研究も、イエネコの起源の地として「近東」を挙げている。しかし近東といってもかなり広範囲だ。よりはっきりした地域を限定する研究が必要だろう。 現在知られている限り最古のイエネコの骨は、約9500年前の地中海最東部に位置するキプロス島(注:現在のキプロス共和国)の遺跡地から見つかった下アゴだ(Vigne等2004 )。この島に野生のネコは知られていない。そしてこの下アゴはヒトの居住地跡から発見されているので、ペットとして大陸から運ばれてきたものと考えられる。吾輩を含むイエネコは地中海を泳いで横断するほどの暇も無謀さも、昔から基本的に持ち合わせていない。(ぐーたらでも決してない。) ー Vigne, J. D., et al. (2004). "Early Taming of the Cat in Cyprus." Science 304(5668): 259. ちなみに近東の猫として、真っ先に思う浮かぶのは、長い綺麗な毛と独特の平で愛嬌のある顔をしたペルシャ(猫 )だろうか。(高貴な香り漂う吾輩も、少しばかりペルシャのDNAが混じっているかもしれないと、隣家の三毛子がいつかしゃべっていた。) 一般にペルシャはかなり長い歴史を持つネコの品種として知られている。現在のイラン一帯において誕生したメソポタミア文明に起源があると広く考えられている。しかし最近の遺伝子データにおける研究は、現在のペルシャがもともと西ヨーロッパから派生した品種に源をもつ可能性を指摘している(Lipinski等2008 )。 ー Lipinski MJ, Froenicke L, Baysac KC, et al. The Ascent of Cat Breeds: Genetic Evaluations of Breeds and Worldwide Random Bred Populations. Genomics. 2008;91(1):12-21. doi:10.1016/j.ygeno.2007.10.009.