「子どもは絶対に”学費の高い私立”に行かせます」…《風俗街の病院》で働く新人女医が目撃した「患者嫌いのカネ持ち医師たちの苦悩」
医師の卵たちが6年間を過ごす医学部。倍率も高ければ、学費も高い。狭き門をくぐり抜けた一部の人間のみが知る、謎に包まれた世界だ。 【マンガ】医者も住む「憧れのタワマン生活」が一転…!残酷すぎる「格差の現実」 持つ者と持たざる者。前回記事〈「風俗街の病院」に勤務する新人女医が明かす…“階級社会”の医学部で、学生たちが「スリルを求めて」やっていたこと〉では、前者に占められた医学部の知られざる裏側を、「風俗街の病院」での経験が話題になった女医が明かしている。 本記事では、医者の人間性をゆがめてしまう風俗街の病院の実態、そして「患者嫌いの医者」が生まれてしまう背景を赤裸々に語った。
救急車をタクシー代わりに使う患者
私が就職先に選んだ風俗街の病院は立地も立地なので、生活に困っていたり、生活保護を受給していたりする患者が多かった。医者側も、最初はそれ自体に偏見はない。むしろ医学の道に進んだからには、こういった社会的弱者にこそ手を差し伸べるべきだと思っていた。 しかし、今まで見たことのないような彼らの言動に何度も唖然とさせられ、やがて私は絶望するようになった。 こちらが一生懸命に最善の治療を提案しても、自分が気に入らないと治療を拒否し、横柄な態度を取る。そんな患者はまだ序の口だ。「救急車はタダ」、「生活保護は医療費がタダ」などと言って、まるでタクシーや無料相談所を利用する感覚で医療資源を食い潰す患者もいた。 職員が暴力やセクハラを受けることもある。私が勤めていた病院は患者が暴れた時にそなえて、武術の黒帯が常駐するほど院内の治安は悪かった。 貧富を理由にした偏見は良くない、そんなことは誰だって分かっている。そういった教育はもちろん受けてきた。だが、学校で学んだ理想と病院で見る現実は違う。 本当に救うべき弱者は、救いたくなるような姿をしていない――。 医学部という温室から出てすぐの医者が、この事実を直視するのはあまりにつらい。
医者の心が蝕まれていく
それだけではない。社会に出るまではさほど関わりがなかった、コメディカルの態度にもびっくりさせられることが多かった。 風俗街の病院特有の殺伐とした雰囲気がそうさせてしまったのだろうか。彼らは特に怒っているわけではなくとも、「ちょっと邪魔」「うるさい」といったような、私たちが「初対面の人に対して一度も使ったことがないような言葉」を、当たり前のように使ってきた。 悪意がないと分かっていても、これにはギョッとする。どんなに急いでいようが、同僚に対して「すみません、ちょっとよけてもらえますか?」くらい言うのが普通ではないだろうか。もっと丁寧に他人を扱うのが当たり前だと思っていた当時の私には、これもまた大きなショックだった。 こうしたストレスは勤務医たちの心を蝕んでいく。やがて彼らは患者やコメディカルの悪口を言って鬱憤を晴らすことに疑問を抱かなくなっていった。医学生時代には欠片も持ち合わせていなかった差別意識と偏見にまみれ、書くのも憚られるような差別的な言葉を平気で使うようになる。 日本の病院で働くすべての医者がこうだと断言する気はさらさらない。ただ、それまで純朴に育ってきたに違いない新人医師たちが、いとも簡単に環境に染め上げられていくさまをこの目で何度も見てきたことは事実だ。 本来、医者は困っている弱者にこそ寄り添うべきだ。 しかし現状、医学部を目指す層は恵まれた環境で育った、いわゆる“エリート達”が中心で、社会的弱者に対する解像度が低いと批判されることもある。こうしたカルチャーショックを引き起こす要因の大半もそのせいだろう、と。