「子どもは絶対に”学費の高い私立”に行かせます」…《風俗街の病院》で働く新人女医が目撃した「患者嫌いのカネ持ち医師たちの苦悩」
医者の患者嫌い
では、このような医者と患者の分断を避けるため、医学教育の一環として、社会のリアルを見ておいた方がいい、ということになるのだろうか。 残念ながら、その試みが見事に失敗した例がある。 とある大学医学部が2023年に実施した「課外授業」だ。このとき歌舞伎町を訪れた医学生たちが、立ちんぼ女性たちにティッシュや汗拭きシートなどを配った。ただ、彼らの大半は卒業に必要な3000万円近い学費を支払える、裕福な家庭に生まれた人間だ。「富裕層が上から目線で恵まれない女性たちを物見遊山に来たのか」と、この件はネットで大炎上した。 実際に、ティッシュを配られた立ちんぼ女性たちは、医学生たちと目を合わせることもせず、「施し」を拒否する者がほとんどだったという。 この教育は、医学生たちに多様な価値観に触れてほしい医学部側が精一杯考えて実施したものなのだろう。しかし、こうした経験により、医学生も立ちんぼ女性も、お互いにかえって偏見や反感を強め、分断を生んでしまったように見える。 さらに、こうした分断は局所的なものではなく、濃淡はあるにせよ、全国の病院に存在している気がしてならない。 以前から患者の医者嫌いはあった。診察という行為を嫌がる患者も多いが、ネットでは「高学歴の勝ち組に共感されても嫌味にしか感じない」とまるで存在自体を嫌がるような声も散見される。いずれにせよ、医者嫌いの患者は粗暴な態度で診察室に現れることが少なくない。 一方で医者も人間だ。そうした患者の姿勢は確実にストレスとしてのしかかり、冷淡な気持ちにならざるを得ない。正直突き放したくもなる。聖人君子のような医者もいるにはいるが、現実には「患者嫌い」の医者が一定数いることは付言しておこう。
過去のトラウマに悩む医者
ノブレス・オブリージュの精神を持った医者ならば、この馬鹿げた分断も軽々乗り越えるだろう。しかし、そんな医者を増やすための方策として、将来医学の道に進むかもしれない子どもを多様な価値観に触れさせるべきだとは素直に思えない。 分かりやすい形が公立校への進学だろう。医者の子どもは、小学校の段階から似たようなバックグラウンドを持った子どもたちが集まる私立校に通うケースが珍しくない。しかし、多様な価値観に触れさせたいという親の方針のもと公立校に通うケースもある。 ただ、私の知る限り、後者の道を歩み医者になった人間は、「様々なバックグラウンドを持つ人間と頻繁にコミュニケーションを取らなければいけない環境がとにかく苦痛だった」と口を揃える。金銭感覚や生活スタイルなどの価値観が、周りの同級生たちとことごとく合わなかったのだという。当然それが原因でいじめに発展することも多々ある。 そして、この頃に半ばトラウマに近い感覚を植えつけられてしまった場合、彼らは医者になってもこれに苦しんでいる。あまりに自分の価値観とかけ離れた患者に出会うたび、心の中でアレルギーにも似た拒絶反応を示してしまうのだ。 ノブレス・オブリージュを体現する医者は、子どもの頃から多様な価値観に揉まれたからといって必ずしも育成されるわけではない。むしろまったく逆効果のケースすらある。だからこそ、とても難しい問題なのだ。