『最終兵器彼女』高橋しんの現在地は箱根駅伝!かつて箱根を走った著者が、いま大学駅伝を描く理由とは?【インタビュー】
毎年1月2日・3日にお茶の間をわかせる「東京箱根間往復大学駅伝競走」通称「箱根駅伝」。駅伝作品も多い現在、ついに箱根ランナーの過去を持つ高橋しんさんが駅伝マンガを手掛ける。
これまでに『最終兵器彼女』や『いいひと。』などを世に届け、『かなたかける』で小中学生駅伝、そして『駅伝男子プロジェクト』(すべて小学館)で大学駅伝を描くことになった理由とは? 高橋さんのこれまでのランナー経験や、箱根駅伝を走った当時の思い出と共にお話を伺った。
自身の選手時代よりはるかに巨大な応援の力がある
――本日はよろしくお願いします。高橋先生が実際に箱根駅伝を走った経験があることは有名です。『かなたかける』は小中学生の駅伝ものでしたが、いよいよ箱根駅伝を描こうと思い立ったきっかけは何だったのでしょうか? 高橋しんさん(以下、高橋):「そろそろ描けよ」という空気を感じまして(笑)。まあ走る人の「気持ち」を描くという点では、小学生でも大学生でも変わらないのですが。 ――本作は10年前、20年前だったらこうはならなかっただろう、という、今の時代ならではの要素が盛りこまれているのもおもしろいところです。まず、大学復興プロジェクトとして駅伝の選手集めをイベント的に行うとか。 高橋:走る人の気持ち、関わる人の気持ちについては経験者としてできるだけ嘘を描かないこと。それさえ守れば、漫画なのだから何をやっても大丈夫だろうと(笑)。漫画には実際にはできないようなことも飛び越えていける力がある。その力を信じていろんなアイディアをぶつけてみようと思いました。 ――実際、新しく部を立ち上げるって大変なことですよね。 高橋:すでに有名な伝統校がいっぱいあるわけですからね。そうした学校にしても、「ここならば」と思って入ってもらうには中学や高校時代から積み上げた指導者同士の信頼関係がないと。基本的には人のつながりが大事です。 あるいはカリスマ性のある監督がいるとか。それならアイドルというカリスマを仕事にしている人を監督に据えるのはありかなと思ったんです。陸上にはまったく関係ないけど「この人なら信じられる」という人がトップに立って、そこに集まるというのは漫画的には不可能じゃないなと。 ――47都道府県から各1人選抜される設定にしたのはなぜでしょうか? 高橋:各県から1人選出されたら、地域の人が必ずその人を応援するという構図ができると思ったので。うちの両親もサッカーなんてまるで興味なかったのに、Jリーグができて北海道コンサドーレ札幌を一生懸命応援してる。もちろん北海道日本ハムファイターズも。観客が「地域」という共通項をもって選手を応援することで、選手たちはものすごいパワーをもらえているんですよね。 ――なるほど。ハヤタくんが「岩手くん」というように、出身県がニックネームになるのはわかりやすいですね。それぞれSNSを発信して「いいね」を競うのも、応援する側も楽しいはず。 高橋:ぼくが選手のころ、そんな環境だったら夢のようですね。今、大学駅伝のまわりでは自分の時代とは比べものにならないくらい応援する人の力が巨大になっている。選手は観客から応援のエネルギーを受けて、パフォーマンスでまた観客にエネルギーを与える。アイドルの世界とも親和性がありますよね。「応援される力」もこの作品のテーマのひとつなんです。 ――「47人も選抜されるなんて多すぎない?」と最初は思ったんです。スポーツ漫画のあるあるとして「ギリギリの人数で戦う」的なパターンもありますし。 高橋:物理的に描くのが大変なので、最初は多いなぁと思いました。でも、個人の選手ばかりでなく、「大きい集団」としてのチームの顔をつくっていくこともスタートになる。 ――チームとしての性格を描くということですね。 高橋:もちろん47名全員の設定はつくってありますよ。一人で考えるのは大変なのでスタッフさんみんなに描いてもらってね。 ――その47人が紅白歌合戦で監督のバックダンサーを務めるシーンが大好きです。ダンスのトレーニングがこんな形でも活かされるとは痛快です! 高橋:ダンスの専門家には「なめとんのか!」って怒られるかもしれないけど。一応、ぼくと担当さんでダンスのマンツーマンレッスンも受けたりしたので、許してください(笑)。