『最終兵器彼女』高橋しんの現在地は箱根駅伝!かつて箱根を走った著者が、いま大学駅伝を描く理由とは?【インタビュー】
山梨学院大学の初出場時、10区ランナーだった過去
――高橋先生が箱根駅伝を走ったときの思い出を教えてください。 高橋:山梨学院大学の陸上部が創部2年目で、まさかの箱根出場。箱根駅伝のテレビ放送が今に近い形で始まった年です。ぼくは復路10区のランナーで、1日目の往路は大学の寮でテレビ中継を見ていました。 ――え! メンバーは1日目から全員現地に行っているのかと思っていました。 高橋:復路の5人と付き添いの部員だけしか寮に残っていないので、すごく静かで。調整やトレーニングが終わって、自分の部屋でテレビをつけて。「これが箱根駅伝か」って。そのとき、自分が走る箱根のコースを初めて見たんです。こたつでみかん食べながら。きわめて日常的な空間で、「箱根ってこんな感じなのか」と受け止めた……あの瞬間が自分の箱根駅伝の原点です。それから、みんなで現地に向かって出発したのかな。 ――そして、実際に10区を走っての感想は? 高橋:不思議なもので、沿道で応援してる人がみんな自分に声援を送ってるみたいに思えてね。繰り上げスタートになるかきわどいところだったんですけど、なんとなく間に合うような気がしてました。9区・同期の西口が足を痙攣しながら近づいて来て……タスキをつなぐことだけに集中していたせいか緊張や気負いはありませんでした。総合順位は最下位だったんですが、ぼくは1人抜くことができたんで笑顔でゴールしちゃって。あとからチームメイトにつっこまれました(笑)。
――2025年の箱根駅伝ではどんなことに注目していますか? 高橋:自分の中ではアクシデントやトラブルのない大会が実現できるようにと願っています。そんな101回目の大会が見たいです。各選手のコンディションなど、いろいろあるだろうけど自分の中ではやりきったといえるようなレースをしてほしい。 ――母校の山梨学院大学は予選会で3位に入り、5年連続38回目の本戦出場を決めましたね。 高橋:予選会は取材で見に行きました。周囲からは「山梨学院は今年は通らないんじゃないか」と言われていたんです。それが3位で通ってみんなびっくり。監督に聞くと、ここまで「記録会でいいタイムを出さなくてもいい」と。そのかわり、いろいろなコンディションに対応できるような走りこみを重視していたそうです。 ――記録会でいいタイムが出ていなかったから、下馬評が低かったんですね。 高橋:でも、いいタイムが出ない中で自分の力を信じて結果につなげることができたってすごいことだと思います。まわりからそう言われれば「自分たち大丈夫か?」と不安になるはずだし。予選会まで監督の方針と自分たちを信じてできたことは大きな財産です。願わくは本番にもつながるといいなと思います。 ――では最後に、箱根駅伝の見方についてアドバイスをお願いします。 高橋:やはり選手のことを知るほどおもしろいですよ。でも、事前に選手の情報をチェックするのはなかなか難しい。ぼくの場合、テレビを見ながらラジオも聴いています。ラジオはラジオで映像がない分、テレビとは違う解像度で解説してくれて興味深い。テレビもラジオも去年まで現役だったOBをゲストに呼んでいます。選手をよく知る年の近い先輩たちのコメントを聞くのが楽しみですね。 『駅伝男子プロジェクト』最新4巻では、大学入学前の主人公たちがVRを使って箱根駅伝に挑戦! 正統的なスポーツもののおもしろさとたくさんの独創的なアイディアがかみあい、まったく新しいスポーツ漫画となっている。エンターテインメントな作品でありつつ、作中の選手および現実の選手たちの人生を慮る高橋しん先生のやさしい眼差しが印象的だった。 取材・文=粟生こずえ、撮影=金澤正平