じつは「どちらがいいコーチでしょう」じゃなかったんだ…プロの指導者だけに伝えた「予想外の問いかけ」と、衝撃の答え
「自分の才能」に気づいて
2024年8月に70歳で他界したダウムは、プロ選手としての経験がない指導者だった。 今でこそ、プロ選手経験のない名監督が世界中でみられるようになったが、ダウムが指導者の道を歩みはじめた当時は、そうした前例がまだほとんどない時代だった。そんなダウムが、決して下馬評の高くなかったケルンやレバークーゼン、シュツットガルトといったクラブをリーグの優勝争いに導くなど、非常に高い評価を受ける名将にまで上り詰めることができたのは、彼ならではの強みを引き伸ばすことに成功したからだとリンツはいう。 「ダウムはよく、こう自問自答していたといいます。『プロ選手ではなかった自分の声に、プロ選手が耳を傾けてくれるようにするにはどうしたらいいのか』と。そうするために、何が自分には備わっているのか。そうやって自分自身と向き合い続けたなかで、ダウムは自身が《他人にモチベーションを与える才に長けている》ことに気づいたのです。 ならば、誰よりもモチベーションを高められる指導者になろうと取り組み続けたといいます。モチベーションを高めるためには、選手の“人となり”を知らなければならない。そのためには密にコミュニケーションをとらなければならない。その努力を継続することで、ブンデスリーガ屈指の名指導者にまで上り詰めていったのです」(リンツ) 《自分の強み》に気づくことで、パーソナリティに合う価値観が備わる。そのうえでサッカーや指導に対するフィロソフィーを明確、かつ強靭なものにしていくことが、指導者としての大事なベースとなるのだ。
「悪くないな」
さらに、そうした《自分の強み》を明確にしたうえで、時代や環境に順応する柔軟性も欠かせない。 たとえば、バイエルン(ドイツ)やレアル・マドリード(スペイン)などで数々のタイトルを獲得した歴史的名将の一人ユップ・ハインケスは、「選手の世界を理解し、彼らの立場に立ってみることが何よりも大事だ」と話していたことがある。 バイエルンで指導した選手の一人、元フランス代表MFのフランク・リベリーは自由な気質の選手で、規律を重んじる指導者とは相性が悪かったとされている。ハインケスはそんなリベリーに自然と歩み寄り、ふだん聞いている音楽を訊ね、実際にその音楽を聴いて、「悪くないな」と後日リベリーに伝えたという。 そんなハインケスの人間性に陶酔したリベリーは、ハインケスの言葉には素直に耳を傾け、規律もしっかり守っていたという。