じつは「どちらがいいコーチでしょう」じゃなかったんだ…プロの指導者だけに伝えた「予想外の問いかけ」と、衝撃の答え
「厳しいコーチ」と「穏やかなコーチ」
ドイツ内外から集まった1000人近い指導者たちを前に、リンツはハリのある声で話を進めていく。 壇上のモニターに、とある2人の指導者が映し出された。アメリカのジュニアバスケットボールのゲームのようすを収めたもので、モニター越しにも緊張感が伝わってくる。どうやら、重要な公式戦のようだ。 一方のチームの女性指導者が、厳しい表情で次々に指示を出していく。うまくいっていないプレーに関しては子どもたちの反論を許さず、断定的にミスを指摘しており、声のトーンもかなり激しい。今にも泣き出しそうな顔をしている子どもたちもいる。 もう一方のチームの男性指導者は、対照的にだいぶ大らかな雰囲気だ。一つ一つのプレーを褒め、ミスをした選手を励まし、ポジティブな雰囲気を作り出すことを大事にしているようすだった。休憩時にも声を荒らげることなく、子どもたちと目線を合わせて、何度も拍手しながらコートに送り返している。 映像を見終わり、講師のリンツがどんな言葉を発するのか。僕たち参加者全員が興味深く見守っていると、彼はこんなふうに話し出した。
予想外の問いかけ
「さてみなさん、いまこの映像に登場した2人の指導者がそれぞれ、さらに良い指導者になるためには、『どこに』、そして『どのように』アプローチするのがいいでしょうか?」(リンツ) 会場がややざわめいた。参加者たちは、映像を見ながら周囲の指導者と話をしていたのだが、その多くは「どちらの指導者がより良い指導者か」という視点からの対話だったからだ。 「指導者としてのキャリアにおける中心軸となるポイントは、パーソナリティの成長です。その際、決定的に重要なのは自身のもつ強みを正しく認識し、それを活用すること。弱みは誰にでもあるんです。 スポーツ界における成功例の多くは、指導者が自身の強みを前面に出し、それをさらに発展させ、同時に自身の弱みとも向き合うことで生まれているという事実を、私たちは深いところで理解する必要があります。先ほどシャビ・アロンソを例に、彼と同じプロセスを歩むことはできないといいましたが、個々の指導者がそれぞれに必要なプロセスを見つけ出し、取り組むことが指導者育成の観点では必要不可欠であり、成長のカギになると考えられます」(リンツ)