子どもの睡眠問題と発達障害の関係―“誤診”の原因になることも
◇内村直尚・日本睡眠学会理事長に聞く睡眠と健康の関係【前編】
眠りは心身の健康に影響を及ぼし、それは子どもとて例外ではない。近年増加傾向にあるとされる子どもの発達障害は、睡眠不足によってリスクが高まるとのデータもある。日本睡眠学会の内村直尚理事長(久留米大学学長)に、子どもの健全な発達と睡眠のために必要なことなどについて聞いた。
◇子どもの発達障害、睡眠調整で症状軽減も
睡眠と子どもの健全な発達の関係について、注目されています。 十分な睡眠がとれていない子どもは、ADHD(注意欠如・多動症)や自閉症スペクトラム障害といった発達障害などのリスクが高まるとのデータが出ています。また、最近子どものうつ病から自殺や不登校も増えており、それらにも睡眠の問題が関係しています。2023年4月に発足したこども家庭庁も、子どもと子育て中の親の睡眠について研究費を出して調査しています。 2023年4月に11年ぶりに改訂された母子手帳では、健診の際のチェック項目に子ども自身と保護者の睡眠問題の有無が追加されました。また、こども家庭庁は法的義務として実施している1歳6カ月と3歳の乳幼児健康診査に、5歳での健診も加えることを検討しています。従来は就学前健診という形で実施していたものを前倒しします。発達障害の疑いがあるお子さんを早めに見つけ、問題があっても2年程度の時間をかけて指導をすることが目的の1つです。それによって改善するお子さんもいますし、保護者にとっても受け入れるための時間を持つことができます。 発達障害の子どもの7割程度に「朝起きられない」「夜眠れない」「昼の眠気が我慢できない」といった睡眠障害がみられます。名古屋大学医学部附属病院と浜松医科大学が2022年に▽8~9歳の子どもでは入眠時刻が遅いとADHD症状が強くなる▽ADHDの遺伝的リスクが低い子どもで入眠時刻が遅くなることの影響が強く表れる――という研究結果を発表しました。睡眠不足によって衝動性や多動、不注意が起こり、それが誤診につながる恐れがあるのです。そうした誤診によってADHDの薬を使うようになると、長期にわたって本来必要のない薬を飲み続ける恐れもあります。きちんと睡眠指導をすることで、改善するお子さんもいるはずです。 また、発達障害のお子さんの睡眠問題をある程度調整すると、症状が軽くなることも分かっています。母子手帳の改訂や5歳児健診で、睡眠を切り口に子どもの発達や成長の問題を早期に発見し、改善の支援ができると期待しています。