なぜソフトバンク武田翔太は3年ぶりの完投勝利をマークすることができたのか?
忘れかけていた快感が蘇った。勝利の瞬間をマウンド上で味わう。2018年7月29日の楽天戦以来、1024日ぶりに手にした完投勝利に、ソフトバンクの右腕・武田翔太(28)は喜びと今シーズン最多の128球を投げた心地よい疲労感を表情に同居させた。 「長いイニングを投げられてよかったな、と思っています。野手のみなさんにたくさん点を取っていただいて、いい流れで投げることができました。感謝しています」 敵地・メットライフドームで西武に8-2で快勝した18日の10回戦。武田の言葉通りに、打線は初回にいきなり2点を先制した。二死一塁から4番・柳田悠岐が、西武の先発左腕マット・ダーモディの初球、インハイに甘く入ってきた147kmのストレートをフルスイング。瞬く間に右中間スタンドの上段に突き刺さる第8号となった。 その裏をわずか11球で三者凡退に仕留めた武田だったが、2回に四球と栗山巧の右前打で作られた無死一、三塁のピンチで、6番・山川穂高のセンターへの犠牲フライで1点を返されてしまう。立ち上がりの状態を、武田自身はこう振り返っている。 「状態はよくないと、前のピッチングを通して自分のなかで思っていたので、慎重に投げられたことがよかったと思っています」 ロッテと対峙した前回11日の登板で、ブランドン・レアードに2発のソロアーチを浴びるなど、7回4失点で今シーズン2敗目を喫した。代名詞でもあったカーブの割合を減らし、ストレートとスライダーを中心に力で抑えにいった配球が裏目に出た。 そして、修正のために導き出された答えが「慎重に――」だった。たとえば1点差とされた2回一死一塁で、7番・呉念庭を左打席に迎えた場面。カウント2-2から空振り三振に仕留めたボールは、見逃せばボールになる115kmのカーブだった。 呉は、初球も113kmのカーブでストライクを先行され、三振する直前にはボールにこそなったが、インローのきわどいコースへ142kmのストレートを投げ込まれていた。そこへ再びカーブが、キャッチャー甲斐拓也の手前でワンバウンドする軌道で落ちてきた。タイミングを狂わされた呉は腰砕けになり、まともなスイングができなかった。 3回を10球で三者凡退とした武田は、4回の先頭・森友哉を四球で歩かせ、ピンチになりかねない場面でも伝家の宝刀を抜いた。フルカウントから投じた117kmのカーブで4番・中村剛也を泳がせ、ショートゴロでダブルプレーに打ち取った。