なぜソフトバンク武田翔太は3年ぶりの完投勝利をマークすることができたのか?
縦に大きく割れ、落差も大きい武田のカーブは「魔球」と形容され、2015年に13勝、2016年には14勝をあげる原動力になった。ストレートとのスピード差は30km前後。西武打線に投じた128球のうち、カーブが約20%にあたる26球を占めるなど、緩急を駆使して相手打者を幻惑しながら、少ない球数で凡打の山を築いていった。 7回無死一塁では、アウトコースへ投じられた144kmのストレートを強引に引っ張った山川が、ショートゴロ併殺に倒れている。その脳裏には前の打席でストライクを取られた111kmのカーブが、強烈な残像として刻まれていたはずだ。 カーブのコントロールが微妙に狂っていた関係もあって、頻度を減らす傾向が続いていた。しかし、2017年以降はひと桁勝利に甘んじ、特に右ひじの手術から復帰した昨シーズンはプロ9年目でワーストの2勝に終わった武田は危機感を募らせていた。 そこへ武田自身をして「不甲斐ないピッチングをしてしまった」と言わしめた、ロッテとの前回登板で喫した悔しさが加わる。試合後に口にした「慎重に――」は、カーブを効果的に、なおかつ数多く駆使する「原点回帰」と表裏一体を成していた。 ソフトバンク打線も5回に9番・今宮健太と1番・川島慶三の連続タイムリーで、7回には今シーズン初昇格で即3番で起用されたウラディミール・バレンティンのタイムリーポテンヒットで2点ずつを追加。8回にも再び2点を加えて勝負を決めた。 そして、一方的な展開となった終盤になって、自軍のベンチ前でキャッチボールを始めた武田に、森山良二ピッチングコーチが近づいて何やら話しかける場面があった。どのような会話が交わされていたのか。ヒーローインタビューで武田が明かした。 「一球一球、しっかり集中して頑張れ、と声をかけてもらいました」 工藤公康監督を含めたベンチの思いは、できる限り一人で、だったはずだ。西武との3連戦前まで43試合を消化していたソフトバンクは、まだ先発完投したピッチャーが出ていなかった。最も長いイニングを投げたのが石川柊太の8回で、それも一度だけ。対照的にリリーフ陣を5人以上も投入した試合が11度を数えていた。 長いシーズンを考えたときに、リリーフ陣の登板過多と蓄積疲労を回避しながら勝利を積み重ねていく必要がある。武田自身も直近の2試合こそ続けて7回まで投げたが、4月8日の日本ハム戦は6回途中で、同15日のオリックス戦では5回3失点で降板。後者では5人のリリーフ陣がその後を無失点に封じ、今シーズン初勝利を手にした。