金融緩和サプライズ転換はなし 日銀、円安には“塩対応”
日本銀行は17日、金融政策決定会合を開き、大規模な金融緩和の維持を決めました。欧米諸国が利上げに踏み切る中、日銀の対応が注目された今回の決定会合。その背景には何があったと考えられるか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】「悪い円安論」にウクライナ情勢で物価上昇も…マイナス金利撤回も視野
通常より早い11時43分に終わった決定会合
日銀は17日まで開催していた金融政策決定会合で、大方の予想通り金融政策の現状維持を決定しました。短期金利をマイナス0.1%、長期金利を「0%程度」に据え置くイールドカーブコントロール政策を続けます。また将来的な利下げに含みを持たせる政策指針の文言も変更しませんでした。なお、結果が発表されたのは通常よりも早い午前11時43分でした。通常、政策変更がある時は発表時間が遅くなる傾向がありますので、今回の早さには「政策修正の議論すらなかった」との含意があったように思えて仕方がありません。 一方で先行きのリスク要因を記載する段落には「金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある」と『為替』の2文字が登場しました。日銀に円安対策を求める声も相応にあったため、完全なゼロ回答にならないよう、声明文に記載したとみられます。「塩対応」といったところでしょうか。
「ヘッジファンドに負ける日銀」レッテル避ける?
マスコミ報道を中心に円安批判が強まる中、マイナス金利の「盟友」が脱マイナス金利に舵を切っていたことから、日銀もそれに追随するとの見方が浮上していました。ECBは9月までに中銀預金金利(現在は▲0.5%)をマイナス圏から脱出させる方針を示しており、16日にはスイス中銀が▲0.75%の政策金利を突如として50bp引き上げました。ごく一部の海外投資家は、日銀がそうした時流に乗り、現在+0.25%を上限とする長期金利の誘導目標レンジを引き上げると予想していたようです。過度なインフレに直面していない日銀は海外中銀と比べて緩和継続が容易である、このことを再認識させられる結果でした。 一部の海外投資家(ヘッジファンド)は国債先物を売り込んでおり、マスコミ報道では「日銀vs.ヘッジファンド」という対立構造で攻防戦が語られていました。もっとも、ヘッジファンドは日銀を屈服させる目的で国債を売っていたのではなく、純粋に政策修正を見込み収益機会を探していたに過ぎず、そうした対立構造の説明には違和感を禁じ得ません。それでも一部投資家の売りを日銀がオペの多様化によって吸収していたのは事実ですから、今回、もし日銀がYCC誘導目標レンジの上限拡大などの政策修正に踏み切っていたならば、「ヘッジファンドに負ける日銀」というレッテルを貼られ、それこそ信任を失ってしまう可能性がありました。日銀の立場になって考えてみれば、ヘッジファンドが売りを仕掛けている時こそ政策を維持したいでしょう。