無難だった米雇用統計 FRBの利上げペースは変わらない?
底堅い内容だった米雇用統計。そこから米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めの方向性を読み解く材料は見いだせるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。
インフレは沈静化の兆し
6月3日に米労働省が公表した米国の5月雇用統計は無難な結果となり、FRBの金融政策見通しを予想する上で、そのヒントに乏しい内容でした。もっとも、雇用統計を細部までみるとインフレ沈静化の兆しが認められています。その点において、今回の雇用統計は及第点に届いたと考えられます。 民間の非農業部門雇用者数は前月比+39.0万人となり、4月と同程度の伸びが維持されました。市場予想(+31.8万人)も上回っており、政策当局者や市場関係者の間で生じている景気減速懸念を和らげる数値でした。業種別にみると、宿泊飲食店等接客業(レジャー・ホスピタリティ)が前月比+8.4万人と伸びを牽引したほか、教育(+7.4万人)や運輸(+4.7万人)、建設(+3.6万人)等が伸び、政府部門(+5.7万人)も増加に貢献しました。この結果、雇用者数は2020年1月を100とすると99.7まで回復しました。
賃金インフレは“良い鈍化”
失業率は3.6%と4月から不変でした。もっとも、労働参加率(62.24%→62.34%)の上昇と併せて考えると、ポジティブな結果であると判断されます。労働参加率は、生産年齢人口(15歳~64歳人口)に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合と定義されていますから、その上昇は国全体の労働供給量が増加方向へ動くことを意味します。企業の人手不足感が著しく、求人件数が歴史的高水準で高止まりする中、労働市場へ(再)参入する動きが復活したことは、労働者不足に起因する供給制約の長期化懸念を和らげます。 ただし、5月は失業者を最も広義な尺度で捉えて算出したU6失業率が7.1%へと2カ月連続で上昇するなどネガティブな側面もありました。U6失業率とは、フルタイムの職が見つからずやむなくパートタイム勤務に従事している人を失業者とカウントして算出した失業率です。その上昇は、空前の人手不足下において労働需給のミスマッチが拡大している可能性を示唆しています。 賃金インフレの動向を読む上で注目される平均時給は前月比+0.3%、前年比+5.2%と市場予想(前月比+0.4%、前年比+5.5%)を下回る伸びに落ち着きました。3カ月前からの伸び率(=3カ月前比年率)は+4.3%へと減速し、前年比伸び率が間もなくピークアウトする可能性を示唆しました。 賃金上昇については、購買力が「インフレ負け」しないとの視点でみればポジティブですが、そもそもインフレの原因が賃金上昇にあるとの見方に基づけばネガティブです。過去数カ月のトレンドである前年比5%超の伸びは、2019年対比で明確に高く、正常な状態とは言い難い状況にありますから、今回の結果は「良い鈍化」と捉えて差し支えないでしょう。週平均労働時間は34.6時間と前月比横ばいでした。パンデミックの回復初期局面にあたる2020年後半は少ない人手で生産活動を支える構図にあり、平均労働時間は著しく長時間化しましたが、労働市場の回復が進むなか、パンデミック発生前のレンジ(34.3~34.6時間)に戻っています。