焼き鳥を極めろ! さばきから串打ち、焼きまで、銘店『鳥さわ』の極意教えます
焼き鳥を極めろ! さばきから串打ち、焼きまで、銘店『鳥さわ』の極意教えます
居酒屋料理の定番とも言える焼き鳥。そんな焼き鳥であるが、下町・亀戸に予約が取れない高級割烹の佇まいを持つ焼き鳥屋があることを皆さんはご存知だろうか。
鶏肉の魅力を最大限に引き出す焼き鳥
「若き天才が亀戸にいる」という噂が焼き鳥好きの間で評判になっている。独立してまだ6年の『鳥さわ』店主・中澤章氏だ。 鶏のさばき方、焼き方、提供の仕方、そして店作りまで、すべてに手抜かりがない。そしてそのどれもが斬新で、彼が焼く焼鳥は明らかに今までとは違う、とにかく旨いのだ。 「元々は料理人じゃないんですよ。でも焼鳥が好きで、思い立って、この道に入りました。焼き鳥って、串に肉を刺して焼く、というシンプルなものだと思っていたんですが、奥が深くて面白いんですよ」と中澤氏は語る。 店では大山鶏のなかでも旨味と歯ごたえの良い親鶏のみを使用。丸のまま直送されてくるため、鮮度は抜群。内臓も全て店で切り分け、骨まで余すことなく使う。 大きな親鶏は「骨すき包丁」で一気にさばいていく。まず最初に最も大きなもも肉をはずす。その先端にあるのが希少部位の「ソリレス」である。細かな筋や骨を取り除く中澤さんの見事な包丁さばきに、若きスタッフたちも釘付けだ。 部位ごとに分けたら、串打ちを始める。 「かしわ」はもも肉をすね側・もも側に分け、細かな骨を取り除き、食べやすい大きさに切り分け、串を打つ。 「皮を付けすぎると焦げるので注意。自分の串打ちは少し雑なんですよ」と中澤氏は笑うが、それは肉に躍動感がある打ち方だ。火の通りを考え、食べやすさも計算されている。 「つくね」は絶妙な肉の食感を残す挽き具合。一度フライパンで表面を焼き、串打ちしながら、改めて形を整える。 「ソリレス」は1羽にたった二つしかない。厚みがあるので肉と肉の間を少し空け、火の通りをよくする。 「ちょうちん」は卵管、レバ、未成熟卵の順番で打つ。最後の卵は薄い皮の部分のみに串を入れる。卵に刺すと黄身が流れ出てしまうから、慎重な仕事だ。 そして焼き台に向かう。紀州備長炭ならではの火力の強さ、火の持ちの良さが、鶏肉のポテンシャルをさらに引き出す。 「部位ごとに焼き加減は変えています。近火の強火なので焦がさないよう、火を入れるのが大事ですね。炭火は湿度にも弱い。その日によって焼きを変えます。特にさびやきや血肝(レバ)は焼きが難しい。焼きすぎると固くなるので余熱を効果的に使うようにします」。 だからこそ上手く焼けた時はすごく嬉しい、と笑顔を見せる。 焼き上がった串はそのままかぶりつくのが鉄則。肉と肉の間にある肉汁が美味しいのだ。間違っても、串から肉を外して食べるのはいけない。せっかくの鶏肉のジューシーな旨味が逃げてしまう。「ちょうちん」はひと串をひと口で食べる。口の中で卵がとろりと広がり、卵管とレバの食感、味の違いが渾然一体になる。「ソリレス」の弾力と肉の甘みは何とも言えない。焼鳥を食べる幸せをひしひしと感じる瞬間だ。 店では季節の野菜も豊富。めずらしいアピオス、金針菜、小タマネギやシイタケなどがいいタイミングで登場する。店主が考えた串の順番だ。おまかせでいただきたい。 品数は焼鳥、野菜を全部合わ せて常時20~25種類程度。ひと串250円~300円くらいで、 予算は5000~6000円ほどだ。 これほどに味のバリエーションを楽しめ、この価格は嬉しいところだ。焼鳥に欠かせない日本酒、焼酎、ワインのチョイスも憎い品揃え。 最後に中澤氏に最も重きを置いている仕事は何かと尋ねた。 「串打ちや焼きも大事ですが、 一番大切なことは客のペースを知ること。調理をしながら様子を常に見ています。絶妙のタイミングで串を出したい、美味しく食べていただきたい。だから味だけでなく、居心地や店の雰囲気も大事だと考えています。料理人だけれど、もてなす心遣いが大切だと思いますね」。 これこそ懐石のかたち、和食の極意ではないか!