なぜ阪神は“守護神”スアレスを引き留めることができなかったのか
しかも、彼らを獲得するには、複数年契約を求められるので、その数倍の予算が必要だが、リリーフは酷使されがちで、例外的な選手はいるものの、寿命の短い彼らにあまりお金をかけたくないというのがチーム側の本音。よって一部のチームは、そうした選手には目もくれず、育成に力を注ぐ。実際、メジャーでは1年目、2年目の若い選手でも、セットアッパー、クローザーとして成功するケースが少なくない。2016年に22歳でデビューしたマリナーズ(当時)のエドウィン・ディアス(メッツ)は、3シーズンで109セーブを記録。18年には57セーブを挙げたが、その年の年俸は57万8000ドル(約6500万円)。これが理想なのだ。 もちろん、適性などが未知数の若手に僅差の勝ちゲームを任せるのはリスクが高い。だからこそ、実績と金額は連動するのだが、候補はいるものの心もとない。かといってクローザーに1000万ドル(約11億5000万円)近い資金を投資する余裕はないーーそんなチームにとっては例えば、スアレスが年俸400万ドル(約4億6000万円)で獲得でき、セットアッパー/クローザーとして結果を残せるなら、格安だ。 先ほどのスカウトがスアレスを“掘り出し物”と発言したのは、そういうことである。 スアレスの実績はもちろん、日本のものではあるが、「年俸400~500万ドル(約4億6000万円~約5億7000万円)で決着するなら、リスクではない」と同スカウトは取材に答えた。 「日本での投手成績は、ある程度、計算が立つから」 かつて、日本球界への移籍は、投手、野手にかかわらず、片道切符と言われた。もちろん、歴史を辿れば、元阪神のセシル・フィルダーのように、日本でプレーした後、メジャーに戻りホームラン王になった例はあるが、極めてレアケースだ。 しかし、コルビー・ルイスが広島で活躍した後、10年にレンジャーズと契約し、16年まで(13年は故障)先発ローテーションを担ったあたりから、潮目が変わった。同時期、阪神、オリックスでプレーしたライアン・ボーグルソンがメジャーに復帰すると、11年にはオールスターゲームにも選ばれている。 ルイスを獲得したレンジャーズのジョン・ダニエルズGMは当時、「日本で学ぶことで、それを飛躍に繋げられる選手はいる。将来、日本のチームと提携を結び、レンタルのような仕組みが生まれるかも知れない」と話したことがあるが、16年にはヤクルトのクローザーだったトニー・バーネットと契約。バーネットは53試合に登板し、60回1/3を投げると、7勝3敗、防御率2.09をマークして、結果を残した。 巨人を経て、18年にカージナルスと契約したマイルズ・マイコラスが、いきなり18勝をマークしたケースもあり、かつてルイスが「メジャーで十分な出場機会が得られないなら、日本で実績を積んでから、戻るという選択肢もある」と話した方法は、もはや一つのルートとして認知され、ハードルは確実に下がっている。